支援物資

第76話 支援物資

「さて。宇に幾つ送って支援するのかが問題だぞ!」

 恭次は喫茶『エルサレム』に着くなり、そう言い出した。

「妥当なのは、7個と云ったところかしらねぇ?」

 隼那もその問題に対しては、考えを進めていたのだろう。

「8個は、もしも北海道が侵攻された時の為に取っておこう。

 それに、『神の数字』だから、宇の方でも喜ぶだろ」

「問題は、『現実の世界』に於いて、ソレだけの支援が出来ない事ね……。

 まぁ、贈ってみて様子を見ましょう」

 問題は、贈る手段だが。

「誰か、テレポーターに直接、宇に『支援物資』を持たせましょう。

 誰か一人、地球上なら何処へでもテレポート出来るって人が居たでしょう?」

 そのテレポーターに見当が付くと、すぐにテレパシーで連絡が取られ、呼びつけてテレポートさせた。

「重要任務よ。必ず、宇首相に届けなさい」

「はっ!間違いなく!」

 だが、コレで問題が解決した訳では無かった。

「――問題は、本当に露が北海道へ侵攻して来た場合、護り切れるか、って事よね」

「露の強みは、安い戦闘用飛行機の量産なんだよな。

 ソコを叩くには、物資を十分に手に入れられない状況を作り出す事なんだけれど……」

「日本の戦闘用飛行機は、高い分だけ高性能で、航空自衛隊の士気も高く、腕前も優秀なんだけれど……。

 飽和攻撃を仕掛けて来られたら、対処が難しいわよねぇ……」

「米による空襲、なんて事態になったら、露は確実に核に手を出すだろうし……。

 ホントに、米の次の首相が切り札になるかならないかで、大変な問題になりそうだな……」

 本当に、西暦2027年11月に到達するまでは、断じて油断がならないのだが。

「何ででしょうね。まるで、世紀末でもやって来たような雰囲気なのは。

 そもそもが、日本は地震で国家の大黒柱が揺らぐ事態にもなりそうなのに。

 『泣きっ面に蜂』状態かしら?」

「そもそもが、悲観主義者が『思い通り』になったら、絶望的だと云う話だよな!

 楽観主義者が『思い通り』になったら、刹那的な気持ち良さは感じるかも知れないが、楽しくはないよな!」

「そして、思い通りにならなくなったら癇癪起こして、悪い方に思い通りになっても癇癪を起こす。

 そんな人間、最低よね。

 人間なんて、普段は望む程のドラマは無くても、特別な時には予想の斜め上を行く位が、丁度いいのよ」

「将来に、何の希望も持てなくなって、それでも尚、力強く生きようとする。

 ソレを邪魔する権利なんて、誰にも無い!」

「露は、蘇に改名すべきなのよ!それであれば、縁起の悪さも失われる。

 せめて、この物語の中でだけは、今後、露を蘇と呼ぶようにしましょう」

 恭次がふと、天を仰いだ。

「疾刀の野郎に、もう一つ頼まなければならないことがあるな」

「――何?一体、何の話?」

「いや……。疾刀の野郎に、改名して貰えないかを頼めないかと思ってな。

 ソレが叶ったら、俺も改名したいんだけどよぉ……」

「……風魔君は判るけど、恭次は何で?」

「いや……『教師』を濁すのはどうかと思ってな。

 結果、運命が俺を殺すなら、別に俺はソレでも構わない」

「風魔君には、何て改名して貰うの?」

「それは、『風間 疾風』だな。で、俺は『緋神 恭一』」

「成る程ねぇ……。ふぅん……、そう云う事かしら?」

「ああ。多分、隼那が考えている通りの事情だぜ!」

 そう言って、恭次はニヤリと笑むのだった。