第42話 手遅れ?
「おかえりなさい、楓」
「へへへっ。凄いね、このプログラム」
「『ルシファー』のことですか?
当然!
僕が、一ヵ月も掛けて組み上げたプログラムですからね。
まぁ、元は楓のアイディアですが」
「僕、決めたんだ」
「何を?」
「香霧とは、学校で会って話をしようって。
香霧が僕と同じく悪夢にうなされているのなら、この能力を見せて、希望を持たせてあげようと思って。
『ルシファー』って言ったっけ?それって、香霧にも有効?」
「それは危険ですよ。
何しろ、12個の『ビャッコ』を以って、ようやく制御出来る程の威力ですから。
それよりは、ネットを組んであげた方がよろしいかと思いますよ」
「うーん……。じゃあ、そうする」
「よし。じゃあ、そうと話が決まったなら、今まで滞っていた仕事を熟していきましょうか。
1か月、僕のワガママに付き合って下さって、本当に皆さん、ありがとうございます。
これからも、多少のワガママには付き合っていただきますが、基本的には皆さんに従います。
どうぞ、よろしくお願い致します」
かくして、その研究室は、紗斗里の意見を取り入れつつも、本来の仕事を再開したのであった。
そして夏休みが終わり、始業式。
香霧に一刻も早く会う為、いつもよりかなり早めに楓は登校し、教室で待っていた。
そして香霧は、同じ考えを持って登校し、二人は出会ってすぐに駆け寄り、抱き合った。
「香霧ぃ」
「楓ちゃん!酷い!
どうして連絡してくれなかったの?ずっとずっと、待ってたんだよ?」
そのセリフを聞いて、楓は顔面蒼白になった。
「香霧、レオパルドは発動していない?」
「レオパルド?って、超能力の一種?
それなら、発動させてないけど……それがどうかしたの?」
「ちょっと、テレパシーを使わせて貰うね。ちょっとの間、何も考えないで」
言われるままに、香霧は楓の云った事に従っていたつもりだったのだが、楓が香霧の心を読むと、やたらと馬鹿デカい声で、「何も考えない、何も考えない、何も考えない」と念じるのを読み取る事が出来た。
「……もういい」
「どうだった?」
「……」
楓は潤んだ瞳で、香霧と見つめ合った。
「もう、手遅れになっているかも知れない」
「えっ?どうして?」
「東矢さんみたいになってる」
「そんな!私、感染してから1か月と少ししか経ってないよ?」
「でも、なっているものはなっているんだもん」
もう、楓の声は涙声になっていた。
「助かる方法は無いの?」
「デュ・ラ・ハーンに勝つ以外には」
「なら、デュ・ラ・ハーンに勝てば良いって訳ね。
なら、楓ちゃん。私と一緒に、デュ・ラ・ハーンに勝つための訓練を始めない?」
「夏休みも終わったし、僕にそんな時間は、もう無い」
「日曜日だけでいいのよ。それに、冬休みも春休みもあるし。
感染してから1年経つまでは大丈夫なんでしょう?」
「……多分」
「じゃ、それで良いじゃない。やるだけやってみようよ。
こっちの都合を押し付けるみたいで何だけどさ」
「分かった。やるだけやってみる。
僕とネットを組むと良さそうだから、ネットを組んだ状態での訓練をしようよ」
「そうね。
大体、何が手遅れなんだろうね。
お兄ちゃんはプラグを外しておいても死んじゃったから、デュ・ラ・ハーンに感染したプラグを差し込んでいなくても死んじゃうってことは分かったけど……」
「……多分、今から努力しても、デュ・ラ・ハーンに対抗する力を手に入れられる可能性が無いという意味で手遅れなんだと思う。
それらしいことを、デュ・ラ・ハーンの第二の人格が言っていた。けど――」
「『けど』?何?」
「ううん。何でもない」
けど、『ルシファー』ならば、何とかなるのではないかと楓は思ったが、それは口にしなかった。
『ルシファー』を使いこなす訓練を行った事で、楓は『ルシファー』の危険性を思い知ったからだ。
「じゃ、次の日曜からお願いね」
「うん」
こうして、二人は約11ヵ月、訓練を続けた。