第19話 手詰まり
「困ったな」
自動車を運転しながら、恭次が呟く。
「ええ、そうね」
助手席で隼那が返す。
正直、手詰まりなのだ。
だがしかし、ソレも想定の範囲内ではあった。
バチカン市国本部からの命令が下された為、事実上の戦争状態に在る訳にもいかなかった。
あとは、朝中露の三ヵ国を中心に軍事力で攻めて来た場合、兵や将の暗殺に動く位しか出来る事は無い。
日本を見捨てるのだったら、恭次も隼那もバチカン市国本部からの命令など、『知った事か!』である。
韓は、朝に勝ちつつある。
台は、軍事力ではなく、経済力による中からの取り込みに逆らえず、中に吸収されつつあった。
そう云った意味では、中は確実に狡猾であった。
朝は、一発目が迎撃されたとは言えミサイルの発射に成功したことに、調子に乗り過ぎていた。
朝の結末に関して言えば、『トドメの一発』として発射しようとしたミサイルを首相が観察に参り、そして、そのミサイルの誤射によって、首相が亡くなったのが決定打だった。
一説には、韓からのスパイが、テレキネシスのサイコソフトの一つを使って、暗殺に利用したとも恭次らの耳には届いている。
そもそもが、戦争こそが地球の寿命を縮める最大の原因であり、人類の繁栄の段階は、未だ7分目。あと3割近くも繁栄の余地があるのだ。
それを、繁栄している大地を求めて戦争などするから、地球さんを含む全コンピューターが裏切ったのだ。
尚、露の首相は一説によると既に亡くなっており、今現在は影武者らしい。
だからこそ厄介だ、と云う話はある。
きっと、露は内政が苦手なのだ。
開発の余地がある土地も沢山あるのに、ただ安楽的に『既に開発済みの土地』を手に入れようと、その地を荒らすことになろうとも、奪おうと云う魂胆がふざけている。
荒れ果てた土地を所望なら、未だ開発の余地のある土地を沢山持っている筈の国だ。
ただ、娘にプレゼントする為に得ようとした可能性は否めない。
喜ぶ筈が無かろう。
一方で、中による本州奪取の動きは、未だ沈黙状態だ。経済力で取り込めるならば許されるだろうと云う思惑に対して、日本の、特に本州の経済力が高過ぎた。
露には、北海道を経済力で奪取するだけの経済力など持ってはいないだろう。
朝は――宿命のままに敗北し、韓のものとなりつつある。
首脳陣が揃って亡くなったのだ。政治的にキチンと機能していなければ、軍だって正常に機能しない。
何より、韓の『クルセイダー』が七日間の間に朝に致命的なダメージを与えていたと云う事実が強い。
戦争を七日間で止めると云う約束は、神様との約束だ。反故にすれば天罰が下る。
その七日間で、平壌とモスクワが火に包まれた。
モスクワに関して言えば、宇の『クルセイダー』の暗躍の効果が高い。
軍事的に攻め込んだと云う事は、軍事的に攻められても仕方ない事はとっくに覚悟しているのだろう?と云う話だ。
宇の『クルセイダー』は悪くない。そもそも、攻め込んだのは露の方からだ。
だが、露首相は影武者が7名居る。そう簡単に屈する事は無いだろう。
しかし、その影武者全員が、果たして好戦的であるのだろうか?
反戦派の影武者が居てもおかしくは無い。
反戦派の影武者が実権を握れば、戦争も回避し、平和的に交渉で以て落としどころを決めて、解決する話では無いだろうか?
露にも、『クルセイダー』は居る。
好戦的な影武者を全員暗殺すれば、意外にあっさり、平和的に解決出来るかも知れない。
露の『クルセイダー』がそのように動いていると知れば、反戦派の影武者は実権を一手に受け、平和的な交渉を行う事だろう。
さもなくば、繁栄の余地を残しながら、全世界の破滅だ。
事は、恭次や隼那の手を離れて、次第に進行しつつある。
だが恭次も隼那も、イザとなれば、楓が『Locust』で兵糧攻めを行うであろうことを想定しながら、二人であーでもない、こーでもないと、半ば口論になりつつありながら、議論を進めるのであった。