第100話 戦闘訓練
「最後に、ドラゴン部隊対バルキリー部隊で実戦形式の訓練を行う!」
恭一はその情報を、テレパシスト部隊を通じて、クルセイダー札幌支部の全員に通知した。
ドラゴン部隊は男、バルキリー部隊は女性が中心となって、ネットを組んでの対決訓練の予定だった。
「両肩に、それぞれ風船を一つずつ装備して、どちらかが割られたら脱落だ!」
とは言え、クルセイダーの札幌支部は千人以上居る。
風船を配って、各自で膨らませて口を結んで貰い、テープで貼り付けるのだ。
その数を揃えるのも苦労した程で、膨らませる以降は各自に任せるしか無かった。
「しかし、『う』の濁りを禁じられるの、ちょっと厳しいな」
「でも、ソレで平和な世の中が訪れるなら、必要な手間じゃない?」
「まぁな」
だが、急にバルキリー部隊が頼りなくなったのは、相当に痛い。
ココを『勝機!』とか言って攻めて来るのならば、呼び名を改めねばならない。
それこそ、『ラグナロク』の再現となるが、コチラはドラゴンとバルキリーが協力して迎撃するのである。
『コキュートス』と云う切り札もあるし、恭一には『プロメテウス』があり、隼那には『フレイヤ』や、並行使用出来ないが、『AEgis』と『Gungnir』もある。
コレで、七刀たちの協力もあれば、『アテネ』に『ハヌマーン』、各種アンチサイや、ジャミングシステムも利用できるかも知れない。
兎に角、模擬戦での訓練をするが、『ドラゴン』側は最大威力の広範囲攻撃である『ブレス』を封じられた。
死者を出さぬ為の措置とは言え、最大の攻撃手段を封じられたのは痛い。
「今回は、『ドラゴン』側の敗北かもな」
「言い訳しない。
威力としては拮抗するんだから、模擬戦で負けても、実戦では『ドラゴン部隊』の活躍は大いに期待するわ」
「しっかし、『ブレス』を封じられただけで、『ドラゴン部隊』の士気がこんなに低下するかよ!」
恭一の言う通り、『ドラゴン部隊』である男性側の士気が低そうだ。逆に『バルキリー部隊』である女性側は実力を見せんと士気が高い。
恭一は、その様子を見て、檄を飛ばす事にする。
「テメェら!まさか、『ブレス』の封印如きで士気を落としているんじゃあるまいな!
条件は対等だ!反則級の威力を持つ『ブレス』が封じられた位で、そんな覚悟で『ドラゴン部隊』に所属しているんじゃあるまいな!
本当に戦争に巻き込まれても、そんな調子で居るのかよ!
違うだろ!
本気の模擬戦で士気の高さを見せ、警告とし、実戦では当然、『ブレス』も解禁だ!
『バルキリー部隊』に怪我させちゃダメだ!その位のハンディは背負っても戦えると思え!
高が風船を割るだけの模擬戦だ!『勝て』とまでは言わない。『負けるな!!』。その程度の覚悟で、今は十分だ!
勝つのは、本当に戦争になった時だけでいい!
ココで漢気を見せろ!
仮にも『ドラゴン』の名を与えられた部隊だ!相討つのは『虎』だけでいい!
『勝利の音』を封印した『バルキリー部隊』なんざ、蹴散らせ!――とは言っても、相手はレディだ。実際に蹴っては失礼だぞ?
『切り札』を封じて引き分け。それは即ち実質的な勝利に近い!
一人一討。それだけで十分だ!
それから、反則はするな!
敵は『バルキリー』に非ず、ただの『風船』だ!」
その檄には、笑いを誘いながらも『応!』と云う掛け声が返って来た。
「さあ、やろうぜ。
俺たちは札幌の東側から出発する。
『バルキリー部隊』は西側から出発しろ!
開始の合図から、一時間。その位の時間があれば十分だろ。
終了の合図までに、相手の風船を多く割った側が勝利だ!
あとな。『う』の濁りは禁じたが、『V』の文字は、単語として使う必要が生じるから、ソコまでは封印するつもりは無いぜ?
まぁ、最低限に留めるがな!
さあ、開始地点へ向かえ!」
東に向かう漢と、西に向かう女性。
戦闘訓練は、始められようとしていた。