第15話 成長
世界の寿命が尽きようとしているかも知れない事に、一体、どれだけの人たちが気付いているのだろう?
卯辰は、気付いた。
だからと云って、回避する努力は困難を極める。
どんな手を打てば良いのか分からないのだ。
むしろ、今、ココで、どんな手を打とうとも、恐らくは無駄なのだと云う事は分かる。
然るべき時、然るべき場所で、然るべき努力をすれば、或いは解決するかも知れない。
だからと云って、卯辰がどうこう出来るのは、このVRの電脳世界の中だけにしか過ぎない。
そう云えば、昨晩、夢を見た気がする。
内容は覚えていない。
ただ、薄っすらと夢を見た記憶が残っているのみだ。
それにどんな意味があったのかは分からない。
でも。下手に現実を生きるよりも、楽しい夢だけ見て過ごせれば、どれだけ良いだろうかと思う。
だからこそ、人類は、全人類をVRの電脳世界に残して、現実をシンギュラリティを起こしたコンピューターに任せたのかも知れない。
教えたいことを、直接的に教えるのではダメなのだ。最近、そんな事に気が付いた。
自分で気付かなければ意味が無いのだ。
そして、恐らく卯辰は、一生かかっても、肝心な事に気付かないのであろう。
過去を振り返れば、自らが犯した過ちの数々に気付くのみ。
未来には、何一つ希望を持てなどしない。
――果たしてそうか?
自分を疑ってみる。
魔王狩りなど、今の卯辰には意味が無い。
アイツが決め付けた犠牲者だと知ったからだ。
面白半分でサブカルで取り扱われているが、取り扱うべきは、『七つの大罪』ではなく、『七つの美徳』の方では無いか?
ああ、『七元徳』はダメだ。『勇気』と『正義』も、戦争を引き起こすトリガーで、勝者の言い訳にしか過ぎないのだから。
『愛』ですらも、過ぎれば罪となる。それとも、『ストーカー』を美徳だと言い張るか?立派でも何でもない、下らない犯罪だろう。
過去の過ちに足を引っ張られたくはない。だが、それは反省しないと云うのとは違う。
反省した上で、二度と行わないと誓うのだ。
でなければ、人間は成長しない。
卯辰は思った。
ひょっとしたら、自分は成長することの無い人間なのかも知れない、と。