情報交換

第15話 情報交換

「何が目的なんだ?」

 中将の屋敷の部屋へと通され、リットと二人っきりになったところで、レズィンはまずそれを訊ねた。
 
「どうせ話すのなら、お互いに手の内を明かさないか?」

 リットの提案に、レズィンは僅かの間、考え込む。
 
 あの姉妹は勿論、中将たちを含めた他の者たちにも聞かれない状況だということで、受ける事にした。
 
「但し、他言無用ということにしてくれ」

「構わない。むしろ、こちらにも好都合だ。

 まずは、彼等の目的から言おう」
 
 我々とは言わず、彼等とリットは云う。勿論、聞き逃すレズィンでは無い。
 
「皇帝の退位。

 研究所の撤廃、もしくは公開。
 
 その二つがメインらしい。
 
 ――研究所の存在は知っているか?」
 
 レズィンは首を横に振る。
 
「あらゆる分野の研究をこなし、特に軍事面で世界最先端の技術力を誇る集団だ。

 その存在は極秘扱い。皇帝と研究所の関係者以外はその実態について殆ど知らないと言って良い。
 
 この国の兵器の殆どの開発を行った事は調べられたのだが、未だ随分と出し惜しみしているらしい。
 
 実際、今の軍が使用している兵器は、少なくとも10年前には完成していたことが判った。
 
 ……それでも、他にそれに匹敵するだけの性能を持つ兵器を所持する国が見当たらないと云うのが現状だ。
 
 研究所に不満を持っている者は、実は少ない。
 
 知っている者すら少ないのだから、当然と云えば当然の話だ。
 
 私の知る限りでは、中将と大佐、それに私自身」
 
 そこでリットは一息ついて、ワインで喉を潤した。
 
「皇帝については、暗殺も考えられている。過激なところでは、革命を起こして処刑するという案もあったらしい。

 ついでに、私自身の目的も教えておこう。
 
 皇帝の副官の地位を手に入れる事だ。
 
 少なくともそれを手に入れなければ、調べられない事が山ほどある」
 
 つまりは、皇帝側につくという事だろう。所謂いわゆる、二重スパイか。
 
 他言無用の方が都合が良いと云ったのも、その為か。
 
「本気、か?」

 レズィンは煙草を取り出して口に咥える。
 
「生憎だが、ココは禁煙だ」

 オイルライターを取り出したところで、嫌煙家のリットがいつも通りのセリフを口にする。
 
 レズィンは無言で部屋に置いてあった灰皿に目を向けるが、動じないリットの様子を見て煙草をしまい込む。
 
「なら、俺の方も簡単に言っておこう。

 竜と会って来た」
 
 わざと冗談っぽく云ってみる。リットが、眉間に皺を寄せる。
 
「目玉に銃弾をぶち込んでも、弾かれちまった。

 死ぬかと思ったぜ」
 
 淡々と語る様子を見て、不審感を見せていたリットの顔が、今度は驚く。
 
「で、逃げ回って体力が尽きたところで、あのお嬢ちゃんに助けられた。

 でっけぇ剣も持っていたが、蹴り一発で、ノックアウトさせちまいやがった。
 
 バケモンだね、アイツは」
 
 お道化て話すレズィンだったが、その目が笑っていない事で、リットはそれを信用する事にした。
 
「どっちのお嬢ちゃんだ?」

「図体だけはデカいガキんちょの方。

 で、トロくさい姉ちゃんの方には口止めされちまった。だから報告はしてねぇ。
 
 アイツらの家にも行って来たぜ。でっけえお城だ。
 
 けど、中に入ると自由に身動きは取れねぇわ、姉ちゃんは羽根生やして小さくなっちまうわで、どうもおかしな場所だった。
 
 あとは――俺の銃が、元はアイツラの家にあったものらしいってことが分かったのと、金塊は城のどこかから持って来たみたいだってのと……そのくらいか」
 
 レズィンはラフィアに随分と隠し事をされたような気がしていたので、話す事はあまり無いと思っていたのだが、話してみるとそれなりにあることが判った。
 
「金塊は、その城の中ということか?」

「止めとけ。自由に動けないと言ったろ?

 コレが比喩じゃあないんだよ、その城の中は。
 
 説明しにくいが、俺には最初、床も壁も天井も、何もない場所かと思ったぐらいだ。
 
 地面すら無かったんだからな。引き返す事すら出来なかった」
 
「……どういう事だ?」

 レズィンはそれを上手く伝えられない事に苛立ち、髪を掻き毟る。
 
「良いから、止めとけ。

 これが俺からの忠告だ」
 
 結局、考えた挙句に説明を諦め、そう云った。
 
「少なくとも、皇帝の探していた場所はソコだということか」

「ああ、そうなるな。

 多分、二人の云っていた巨大ロブスターもその近くを探せば出て来ると思うぜ。
 
 ヘタすれば、城の中からな。
 
 とにかく、あの二人に関わったら何でもありになっちまう。
 
 俺は、関わらない方が賢明だと思うね」
 
「そうだな……」

 リットが、自分に言い聞かせるかのように呟く。
 
「それで済めば、良いのだがな……」

 考えてみれば、それだけがリットの本音だった。