第43話 思想の衝突
「光の――翼……？」
ウォーディンに言われて首を捻ると、どうやら背中から生えているらしい光の翼が視界に入った。
「貴様、アーク・エンジェルか！」
「道理で、魔法の才能が見えていたのに使えない筈だ。
エンジェルは翼を収納すると、極端に魔法を使う能力が低下するからな。特にアーク・エンジェルは。
ヘタをすれば、ただの人間以下にまで」
「師匠、今日は随分と饒舌ですね」
「お前の噂は聞いている。色々と、話したかったことが積もり積もっていたからな」
「僕もですよ。
ところで、このレース、妨害もアリって聞いたんですけど、お互いの妨害はしなかったんですか？」
「美学に反する！」
即座にそう答えたのは、師匠らしいとアイオロスは思った。
「同じく。
堕天使なんかやっているけど、好きな言葉は正々堂々。
ルールで許されているからと言って、正しいとは思わない。
僕には僕の考えがあるんだ。堕天使になったことにも、エンジェルを召喚して虐殺を繰り返した事にも」
「――！
お前の仕業だったのか！」
「僕を恨むのなら、恨むが良い。憎むのならば、憎めば良い。
けど、半分は予想以上のエンジェルの暴走によるものなんだけどね。
人間に、少しばかり危機感を持たせたかっただけなのに。とは言え、原因は僕だからね。
戦争にならない程度の、と云うか、人間同士の戦争を止める事が目的だっただけなんだ。
手段はともかく、目的は間違っていない筈だ」
半端な思想と、何らかの力を併せ持った人間ほど、怖いものは無い。アイオロスは今、それを痛感した。
「――レースが終わったら、話をしたい。
師匠を交えて、三人……いや、仲間を含めて6人で」
「良いだろう。
けど、僕が優勝しなかった時は、戦いになるよ。
あの盾は、どうしても欲しいからね」
「何の為？」
「より速い、エンジェルを召喚する為に」
並行するルシファーの表情を窺った。嘘か、真か。
「……本当に、それだけか？」
「結果として、より強いエンジェルを召喚出来るようになる。ウォーディン殿は、どうもそれが気に入らないらしい。
僕は、人間とエンジェルの共存の道を築こうとしているだけなのに」
「何が共存だ。エンジェルを人間の上に君臨させたいだけではないか。
しかも、召喚したエンジェルの知能は、作られたエンジェルよりも低い。
君臨させて、一体何が出来ると言う？」
「人間同士の戦争が無くなる」
「人間とエンジェルの戦争は終わらぬ。
今のこの街の有り様を見ろ。エンジェルとデビルと人間の共存。これこそが平和だ。
無闇に危険なエンジェルを増やす事は無い」
ルシファーは鼻で笑った。
「エンジェルを奴隷のように使ってかい？
確かに、今の僕が召喚できるエンジェルでは、人間の上に君臨するには知能が少しばかり足りない。
けど、魔法という技術を扱う面に関しては、人間を圧倒する。
レーサー用のエンジェルのほとんどを召喚したのは僕だけど、こんな奴隷のような使われ方をさせるために召喚した訳じゃ無い。
人間には、エンジェルのスポンサーになって欲しいだけなんだ。
お金を稼ぐという能力に於いては、人間はエンジェルを圧倒するからね。……そのうち逆転させるつもりだけど。
僕は、これ以上、人間を虐殺するつもりは無い。
優秀で、人間ともフレンドリーなエンジェルを召喚し、過去、召喚して暴走したエンジェルを抹殺しようと云う考えの、どこがいけないと言うんだい？」
「その為に召喚したエンジェルが暴走しないという保証は何処にある？」
「だから、そうなる確率を少しでも軽減させる為に、あの盾が欲しいんだ。
ねぇ、『風の英雄』アイオロス君。君は、どちらが正しいと思う？」
正直、これを聞いただけでは答え難い。確かに、両者の言い分はお互いに間違っていないのだと、アイオロスは思う。
だが、どちらがより正しいかと云うと……。
「君臨させる事を除けば、ルシファーさんの方が正しいのかも知れません」
「ほら、聞いたかい、ウォーディン君？」
「貴様こそ、良く聞け。一番肝心な部分を、貴様は聞いていないのではないか？」
「人間とエンジェル、どちらが君臨しなければならないとするならば、すべきなのはより優秀であるエンジェルだろう？
その事をも、僕はアイオロス君に理解していただきたいな」
「僕には、エンジェルの仲間がいます。僕を慕ってくれているので、立場上、どちらが上かと云うと、僕です。
ですが、必ずしもどちらかが上に立つ必要は無いと思います。
対等である為の道を探るのが、最も正しい道だと、僕は思います」
「そう言うなよ、アイオロス君。
君だって、立派なエンジェルの一員なんだよ？それも、上位種のアーク・エンジェルだ。
エンジェルの、更に上に君臨すべき人類だ。僕と同じようにね」
言って、ルシファーは通常の翼の他に、何枚もの光の翼を開いた。
「君らと話し合っても、埒が明かない。実力行使させてもらうよ。
さよ～なら～」
ルシファーが更に加速した。
「させるか！
『BOOST』！」
「盾は僕が貰う！
『SONIC』！」
拮抗した戦いが続いた。そして勝利したのは――