第6話 小火騒ぎ
「……ん……?」
後頭部に妙な感触を覚えて、目が覚めた。
楓が部屋の外へ走って行くのが見えた。
時計を持ち上げ、顔に近付ける。
時間は朝の7時半。ベルが鳴り出す前に、時計の目覚ましは止めておいた。
休日にしては、早い目覚めだ。
寝ぼけた頭でそう思いながら、しばらくぼんやりとする。
そして突然、思い出した。
「そうだ!今日は会社に行かないと!」
慌てて眼鏡を探して身に着けると、パジャマのまま居間へと向かう。
朝食は既に容易され、楓は食べ始めていた。
「起こしてくれて、ありがとね。
それに、朝ご飯まで作ってくれて。ありがとう。
さて。急いで食べないと」
急いでいても、テレビでニュースの確認は怠らない。
だが、テレビを付けていても、見もしなければ聞いてもいない様子だった。
「ごちそうさま。
今日、楓ちゃんはどうする?」
「……ついて行く」
食器は台所に下げるが、洗うのは帰って来てからだ。
洗面台に急ぐと、手早く歯を磨き、顔を洗う。
寝癖が付いていないことを確認して、髪を束ねる。
こんなに急いで準備したのは久しぶりの事だった。着替えも素早く済ませて、居間へと戻った。
「さあ、行くよ。
おいで、楓ちゃん」
楓の身なりを確認すると、テレビを消そうとしてリモコンに手を伸ばした。
電源のスイッチの上に人差し指を置いて、テレビに向けたところで止まった。
何やら、見たことのある風景が、そこには映っていた。
「けっこうここの近くだ。
……小火騒ぎ?」
何やら焦げたような跡とキャスターの開設を聞いて、ふと昨日の疫病神の顔を思い出した。
朝からちょっと気分を損ねる。
しかもその小火騒ぎは、一件では無いらしかった。
気になって、そのままテレビを見続けた。休日なのだから、別に遅刻したところで深刻な問題にはならない。
小火騒ぎは、合計三件。しかもいずれも塀が焦げているだけで、どちらかと言うと放火未遂と言った方が近いようだ。
程無く次のニュースに切り替わったところで電源を切る。眉間には皺が寄っていた。
「行かないの?」
「あ、いや。
……そうだね。行こうか」
気にしないことにして家を出たが、頭の片隅に引っ掛かるものがあった。
念の為に、意識のスイッチをサイコワイヤー補足型のキャットから、範囲型のパンサーに切り替えて、疾刀は会社へと向かった。
幸いにも、トラブルに巻き込まれることなく出社出来たのが、救いだった。