第37話 小惑星
「一難去ってまた一難、ってかよ!」
恭次は、帰還してすぐに届いた報せに、軽く愚痴った。
「『小惑星ベンヌ、地球に衝突の可能性有り』と来たかよ!」
本来であれば、紗斗里が異世界から連れて来た最初の『Swan』使い、『八神 療』に面会し、これから減っていくであろう罹患者を安価で治療して貰うよう、依頼する予定であった。
「――何処に落ちるかで、対応のしようも変わるだろうけどよぉ。
日本だったら、『クルセイダー』の全員で『グングニル』を放って、迎撃するぜ!」
「――ロシアに落下しないかしらね……?」
隼那が、ボソリとそう呟いた。
「紗斗里ちゃんに相談してみようぜ!」
恭次が、如何にも名案を思い付いたとばかりにそう告げる。
「でも、2135年9月22日よ?私たちは、とっくにくたばっているわ。
そう遠くない未来の子孫に対策を言い伝える位しか、出来る事は無いわ」
「あるだろ。『Gungnir』の確保」
「ああ、まぁねぇー」
入手の困難さを知っている隼那と、紗斗里に頼めば作って貰えると思っている恭次。そこにはやはり、温度差があった。
正直、定価で買っていたら、『クルセイダー』は破産する程、『クルセイダー』にとって『Gungnir』は数が必要である。単価も高いし、新たに買うなら、ネットを組んだ方が早いと云う話もある。
「とりあえず、今は罹患者の治療が先決よ!
療君に会いに行きましょう!」
そうとなれば、即テレポートだ。
療の勤める個人病院に向かい、受付で面会を申し込む。その際、軽く要件の説明を添えた。
間もなく、面会の時間がやって来た。
「いらっしゃいませ。
何のご依頼でしたでしょうか?」
「ぶっちゃけると、コロナ患者をもっと安価で治療して欲しいの。
数が数だけに、大きな儲けになると思うんだけど……」
「――そうですね。
安価に、と云う条件であっても、限界があります。
一件、30万。僕の取り分が3万円ですね。
ソレが、妥協のギリギリのラインです」
「もう少し取っても良いわ。
70万で、貴方の取り分が7万円。
どう?」
「良いでしょう!」
療が自らの太腿をパァーンッと叩いた。景気の良い音が響いた。
「問題は、保険の適用が出来ない点ですけれど……」
「あら、そう。なら、『クルセイダー』で保険会社を経営してみようかしら?」
『Swan』での治療に特化した保険。成る程、それならば、儲けを得られるかも知れない。
だが、既に罹患者の保険の契約は出来ない。利益が出る可能性が全く無いからだ。
だから、金持ちが契約する保険になるだろうが、コロナ患者に対しては70万円、他の病気の患者には3000万円と云う支払いを約束する保険であれば、多少高くても加入者は居るかも知れない。
しかし。
「そもそもが、保険加入者の絶対数が必要になるし、その全員に『Swan』による治療の権利を与える、って云うのも難しいわよねぇ……」
現実的に考えてしまうと、隼那が言った通りの問題点がある。
「そうだ!『クルセイダー』の全員が加入すれば、それなりの絶対数は稼げるわよね♪」
まるで名案を思い付いたかのように言うが――
「『クルセイダー』の全員が加入したぐらいじゃ、保険として利益を上げられないだろ」
恭次の云う通り、その程度の絶対数では、まず利益が上げられないし、競合他社に負ける可能性が高い。
「そっか……。
まぁ、そうよね。
――それよりも、今は将来に備えて、『Gungnir』の確保でもしておこうかしら?」
ただ、その問題にしたって、『Gungnir』の寿命と云う問題が残っていることを、未だ隼那は知らないのだった。