宇宙樹

第33話 宇宙樹コスモ・ツリー

「他の星ぃ?」

 レズィンの口からは奇天烈な声が飛び出した。
 
 あまりのおかしな声に、驚かせる原因となったラフィアがビックリする。
 
「参った!

 神話の通りに、竜は本当に宇宙を彷徨うのかよ!
 
 それじゃあ、世界樹じゃなくて、宇宙樹コスモ・ツリーだぜ!」
 
「そうですね。

 ――レズィンさんに話してみて良かった。
 
 何だか、心の中がスッキリしてきました」
 
「そいつは良かった。

 さ、髪の毛をもう少ししっかり拭いてやるから、早く座り直しな」
 
「はい」

 二人共気分を取り直して、先程のように髪の毛を拭く。
 
 風邪を引かせては大変なので、念入りに拭いていた。
 
「今日は随分と夕食が遅いな」

「忙しいんじゃないか?

 来なけりゃ、見張りの連中に文句を言ってやれば良いさ」
 
 そんなことを言っている内に、部屋の扉はノックされた。返答も待たずに扉は開かれる。
 
「遅くなって済まなかった。

 お詫びに、君たちをディナーに招待しよう」
 
 姿を見せたのは、前回の給仕役の女性では無かった。
 
「こ、皇帝陛下……」

 驚いてレズィンは思わず手を止める。皇帝陛下が唯一人、護衛も付けずに現れるなど、考えてもみなかった事態だ。
 
 外に居る筈の見張りも、皇帝と一緒に部屋の中まで入って来る様子も無ければ、こちらに注意を向けている様子も無い。
 
 これはまたとない、絶好のチャンスだ。
 
「シヴァン!奴を取り押さえろ!」

「何故だ?

 食事なのだろう?」
 
 頼りのシヴァンが動かず、レズィンは仕方なく武器になりそうなものを急いで探した。
 
 だが急にそんなものを探したところで、ガラスを割って、その欠片を使う事を思い付いた程度だった。
 
 そんなレズィンの言動を気にもかけずに、皇帝は仮面の奥から、ただ一人だけを見ていた。
 
「――生きて、いたのか」

「あなた、エセルの匂いがする」

 皇帝と正面から目を合わせて、ラフィアが云った。
 
「ハハハッ。

 そうか、こんなところに居たのか!ラフィア・ハスティー!」
 
「エセルを食べたのね!許さない!」

 お互いに相手の云う事など、聞いてはいない。
 
 自分の言いたいことを、皇帝は喜びを、ラフィアは怒りを込めるようにしてぶつけていた。
 
「会いたかった!百年も待たされた!

 君と同じ時を生きる為に、それに相応しい身体も手に入れた。
 
 百年前に、君がいなくなってしまった時には、気が狂いそうになったよ。
 
 まさか、また会えるなんて、思ってもみなかったよ!
 
 ラフィア。私の元に戻って来てくれ」
 
「エセルを返して!

 私の、数少ない友達だったのに!
 
 あなたなんて、人間じゃない!」
 
「エセル?――エセル・フォースクリフか。

 あの人魚ならば、大事に保存してあるよ。
 
 複製にも成功していない、貴重なサンプルだからね。
 
 残念ながら、もう食べるところもほとんど残っていないよ」
 
「人でなし!」

 ラフィアは部屋の隅へと走り、そこに生えていた朝顔を根元から千切った。
 
 引き返すラフィアの手の中で、それは一振りの細身の剣へと姿を変える。
 
 ラフィアはそれを慣れない手つきで握り、皇帝目掛けて振り下ろした。
 
 皇帝の動きは意外と素早く、剣をかわすと共にそれを握る手ごと取り押さえた。
 
「レズィン!お願い!」