第74話 宇への支援
総太郎のプログラミングは、熾烈を極めた。
そもそもが、人間の脳の能力を借りずに、紗斗里・総司郎を上回る性能を目指して、紗斗里と総司郎が総力を尽くして作り上げることを目指した『人工知能』だ。
少なくとも1年。完成までに、それだけの期間を要する。
そんな中でも、他の仕事も熟さなければならない。
一方で『クルセイダー』は、宇に対して、多数のサイコソフトを提供する事を考えていた。
少なくとも、『ネットを組む技術』は伝える。――とは言っても、実際にネットを組んで、ソレでコツを掴んでもらう他に手段は無いのだが。
「だからって、『Gungnir』や『AEgis』まではやり過ぎだからな!」
恭次は宇に提供するサイコソフトのチェックに余念がない。
「でも、『Gungnir』位のサイコソフトを提供しないと、戦況を改善する程の効果は無いと思うんだけど……」
隼那は、別に恭次に反対意見を持っている訳でも無いのだが、そんなことをぼやいた。
「ただ、コレが戦況を覆す為の支援であると理解してくれるものかどうかも疑問なのだけどねぇ……」
「あー……ソケットを備えている奴が居ないと、そもそもサイコソフトを提供する意味は無ぇよな」
「だからって、今更、ソケットを埋めつける手術をする余裕も無いでしょうし。
『Fefnir』も提供するのだから、無駄にならないで欲しいわ!」
「ソレ、『Dragon』で十分なんじゃね?」
「一つ位はあった方がいいでしょう?ネットを組む為に」
「うん。火力が安定するな」
『Fefnir』――『Dragon White』ファフニールは、アンチサイ能力に対して強い耐性を持っている。ジャミングシステムも然りだ。
但し、ファフニールも『Lion』や『ダーク・ライオン』に対しては、その攻撃を防がれてしまう。
アンチサイやジャミングシステムに、絶対的な強さを発揮する、と云う事でもないのだ。
「歯痒いわね。この程度の事しか出来ない事が」
「日本人であることを辞めない限り、侵略の為の戦争は出来ないからな」
「……日本人であることを、辞めちゃう?」
「最悪の場合には、その可能性も視野に入れよう。
フリーランスのサイキック。そんな肩書で生きるのも、悪くはないだろう」
「その時は、モスクワを火の海に沈めるわよ!」
半ば冗談めいた口調で話す二人。
だが、その内7割くらいは本音である事は、聞いている誰もが気付いていなかった。
「ダークキャットは送るとして……。ダークライオンも、出来れば支援して送っておきたいところよね」
「そうだな。――しゃーない。空振りになる事を覚悟の上で、あのオッサンに相談してみるか!」
空振り覚悟で疾刀との交渉に臨もうとする恭次。隼那も、自分も付き添おうと思っていた。
この時はまさか、ダークライオンが手に入る事は、殆ど諦めていたのだが。
ココに、疾刀達の忙しさの事情で、実はどう転ぶか判らない事態ではあった。
ただ、恭次も隼那も、「1台手に入れば儲け」程度のつもりでいたのだった。