第12話 学園祭への備え
学園祭の準備も終盤に近付き、授業は行われずに各派閥に抽選で教室を割り振り、デッドリッグ達は日中は教室の装飾と試作品の仕上がりを試みていた。
一方、バルテマーも前世の知識を活かし、野郎ばかりの派閥を率いてポテチ屋をやろうとしていた。
価格の上では、バルテマーの側に客が殺到するだろう。
ドリンクだけでも、デッドリッグ側の銀貨3枚に対し、バルテマー側は大銅貨3枚と、10倍の差がある。
だが、いかつい野郎の売る大銅貨3枚と、可愛いゴスロリメイド姿の美女たちの売る銀貨3枚は、恐らく同等に売れるか、ややヒロイン達が有利かも知れなかった。
と云うか、恐らくデッドリッグの──ローズ達の出店で食べる奴は、バルテマーの出店ででも買って食べるのだ。
そして、学園祭が終わったら、それぞれのレシピに価値が生じる。
勿論、レシピの難しいたこ焼きのレシピに、値段での優位性は生じるであろう。
ある程度は、予想が出来る。たこ焼きを焼くシーンも展示販売とでも呼ぶべき売り方をするのだから。
だが、マヨネーズのレシピは、予想出来る者は殆ど居ないであろう。
もっと簡単に、酢とオイルと卵を粗く混ぜた類似するソースは存在する。
だが、マヨネーズ程の手間を掛ける事は、予想が難しいと言わざるを得ない。
単に、卵は黄身だけを使い、オイルは少しずつ足して時間を掛けて混ぜ合わせると云う手間は、知識として知っていた方が遥かに早い時代に再現出来るものだ。
具体的には、油の『乳化』と云う現象を引き起こす必要がある。
故に、しっかりと過熱すると分離してしまう。
ローズ達は、オイルも最上級のオリーブオイルのエクストラ・バージンと呼ばれる高級な油を用意した。
銀貨7枚で売るのだ、材料も妥協はしなかった。
「魂のレベルまで乙女を散らしたワタクシ達が使うと云うのも、皮肉なオイルですけれどね」
ローズはそのオイルにそんな自虐を入れる。
女性陣は頷き、デッドリッグは魂のレベルで謝罪の土下座をする程の反省具合であった。──実際に土下座するのは、ローズ達をも貶めかねないので、しなかったが。
「ねぇ、こんな事はしない?
例えば、匂いに釣られた可愛い子供連れの人達に、子供が『食べたい』と言ったら、一人一個限りで、試食を提供するのは」
「良いわねぇ。でも、陛下でも無ければ、『試食を寄越せ』なんて言う連中には、決して試食を与えない事!コレ、大事!
利率の良い商品だし、一人一個限りの試食は、却って利益を呼ぶから、お子様連れのお客様には、積極的に試食させて差し上げましょう♪」
女性が3人集まると姦しいと云う。
今、女性が6人集っているのだから、姦々しいとでも表現するような状況に、男がデッドリッグ唯一人。
デッドリッグは、出店の手伝いは準備段階でしかしない。
当日は、6人のレディと順番にデートするからだ。
6人とも時間は平等に。そう云う建前ではあったものの、恐らくはローズは他の5人よりも長い時間をデッドリッグに求めるだろう。
正室候補。その事実が、その差を産ませる。
幸いにも、6人とも仲は良かった。嫉妬に狂うような女性などいなかった。
だが、このデートを機会に、デッドリッグはヒロイン達から告げられるであろう。──デッドリッグを独占したかった、と。
ローズは正室。コレだけで特別扱いだ。
そこに、デッドリッグはシャレードを用意していた。
ベディーナには指輪を。デルマにはダイヤモンドのペンダントを。カーラには薔薇の花束を。
それぞれの、攻略条件の贈り物だ。
だが、問題がある。バチルダとアダルに贈るべきプレゼントには、条件が無いからだ。
故に、デッドリッグは密かに用意していた。剣士たるバチルダには聖剣を、魔法使いであるアダルには魔法の錫杖を。
簡単に買い求められるものではなかったが、そこは『第二』と言えども『皇子』の権力と小遣いと云うには少々多い資金を以てすれば、少なくとも不可能では無かった。
間もなく、学園祭は始まる。
デッドリッグは準備に抜かりが無いか、細かくチェックを重ねるのであった。