学園祭に向けて

第11話 学園祭に向けて

 学園祭の準備が始まった。

 この学園祭だが、クラス毎に出し物をする訳では無い。

 各派閥が協力して、出店の出店等を行うのだ。

「たこ焼き屋さんをしましょう!」

 ローズが指揮して、俺達の派閥の出し物は決まった。だが。

「ソースとマヨネーズと鰹節、贅沢を言えば青海苔も欲しいところだが……揃えられんよな?」

 ハッハッハと笑い飛ばしたところ。

「ワタクシはソースの宛と、マヨネーズの製法を広めておりますので、ソチラについては心配ないかと」

「──は?」

 一瞬、耳を疑った。

「私は、鰹節擬きを再現しております!」

 バチルダがそう言い出し。

「私は青海苔の調達は、既に用意を始めております!」

 アダルさんもそんな事を言い出す。

「否……そんなにも経費の掛かった商品の、元手を取るにはそう安い値は付けられないだろう」

 俺はそんな事を言い出したのだけれども。

「コレなら、銀貨7枚は堅いですわ。十分に採算が取れて、それなりに売れそうな金額でもあります」

「高ッ!」

「ワタクシ達の手料理を食べる権利として、決して安くは無いでしょう?」

「ローズお姉様。飲み物も販売したら、売れそうじゃないですか?」

「そうね。付き合いのある商会に頼んで、格安で提供して貰いますわ!」

「飲み物一杯銀貨3枚として、計金貨一枚を稼げてしまいますね!」

「ホーッホッホッホッホッホッホ!銅貨単位の安い商品なんかに、利益で負けはしませんわ!」

 どうやら、ヤル気が明後日の方向を向いているらしかった。……未来を見据えていると考えれば、強ち悪い事とも言えないのでは無いか?とデッドリッグは思う。

 しかし、この世界では、殆ど知られていない……前世の記憶持ちにしか、未だ作れない品の筈だ、たこ焼きは。

 それに、ヒロイン達は皆にとっては『高嶺の花』だ。彼女たちの手料理と聞けば、人は聞きつけて買ってゆくだろう。

 例え、ちょっとしたボッタクリ価格であっても。否、だからこそ!

 そして、後日、流行が始まるのだろう、誰かがレシピを買って。

 その情報の価値の判断材料として、金貨一枚は決して高くない。まして、プロのたこ焼き師が経験を積めば、彼女たちの作るたこ焼きに負けないレベルの完成度に届くのだ。

 それが流行れば、単価を下げられる程度の大規模な売買を出来るであろうし、もっと言えば、競い合う事で勝ち残った店だけが、『たこ焼きブーム』を呼ぶのだ。

 そして、ソレを密かに期待していた男が居た。──バルテマーだ。

 彼は、婚約者としてのヒロイン達との関係は諦めていた。否、拒絶していた。

 だが、ソレは彼女達を思っての事なのだ。──と云うか、そう云う選択肢を選ばせたのは、ローズだ。

 強く拒絶しなければ攻略出来る筈のローズから、こっ酷くバルテマーはフラれた。

 ならば、全員幸せの全ヒロイン攻略コースは断念せざるを得ない。

 だから、今のところ6人全員をバルテマーは拒絶しているし、ヒロイン達も『人気男性キャラNo.1』のデッドリッグになびいた。

 ただ、全員にとって、全員がデッドリッグを求めると云う事態は想定外だっただろう。

 バルテマーが、来年入って来るであろう、2人のヒロイン候補達を求める気持ちは強いだろう。

 ──それこそ、2人とも攻略してしまう程度には。

 だが、2人に前世の知識があったら、話は別になってしまう。

 何しろ、6人全員がデッドリッグサイドに靡いたのだ。溺愛コースで壊れたオモチャにはなりたく無いに違いあるまい。

 隠しヒロインの存在は、最早、バルテマーの待望の的だ。そして、出来れば7人目のヒロイン候補と二人ともを攻略して、壊さない程度にお楽しみ頂きたいとデッドリッグは思う。

 二股?次期皇帝候補に側室の一人も居ないと云うのは、却って問題だ。

 出来れば、他にもあと何人か確保して欲しいところだが、バルテマーは辛抱強く隠れヒロインの存在を信じ、貞潔ていけつを護っている。

 ソレは、見る者によっては、酷く屈辱的な表現をされておとしめられる言葉を投げ掛けられかねないが、バルテマーの自覚は強い。

 純潔を散らす相手を作ってしまった場合、少なくとも側室か妾の座を与えねばならない。

 そして、デッドリッグは知らないが、バルテマーは最終的に『一人の女性だけを深く愛した』と云う美談を遺すべく、我慢を続けている。

 来年、隠れヒロインが実装されていなかった上、7人目のヒロイン候補に前世の記憶があった場合、バッドエンドとしてデッドリッグは公開処刑の上で晒し首。

 ヒロイン全員をバルテマーが責任を取って迎えると云う、デッドリッグを含む、ヒロイン達全員にとって、悲惨な最期を迎える。

 何故ならば、その場合、バルテマーはヒロイン達を全員、壊れたオモチャにするまで玩んだ上に、男児が産まれると、求められても応じない、強靭な意志を悪用してしまうからだ。

 だから、ヒロイン候補達は、デッドリッグを擁護し、公開処刑も、全員でデッドリッグと公衆の面前で行為に及ぶと云う、途轍もない救済をしてしまう。

 そして、『公開処刑は済んだ』との共通認識に及んだ後、田舎の公爵として、領土を得られるのだ。

 稼げるのならば、今の内に稼いでおいた方が良い。

 そして、その次辺りに、寒冷地に強い野菜類の育成方法を調べる必要がある。──与えられる公爵領は、かなりの寒冷地だからだ。

 それに、誰よりもヒロイン達が、今、学園祭の出店をする事に夢中になり、着々と準備を進めている。

 最早、『ヒロイン候補』と呼ぶことは失礼だろうと、デッドリッグも考え始めている。

 今世は、兄バルテマーでは無く、その弟デッドリッグが、事実上の主人公だと云う認識をし始めた。

 だからこそ、デッドリッグは覚悟を決めた。

 ──今年度末、ローズの卒業を待って、来年度初めに、ローズを正室とし、他5人を側室として、婚約をした上でローズとは結婚式も行なう。

 本当は、結婚初夜に、乙女を散らすのが美徳とされているが、この歪んだ世界で、デッドリッグは結婚を待たずして行為に及んでしまった、その責任を取る必要がある。

 と云うか、結婚初夜まで待って乙女を散らすのは、既に時代遅れになりつつあるのだ。

 執念を持って、幸せな未来を切り拓く!

 その為には、バルテマーには残る2人を任せたい。

 だが、もしも2人に前世の記憶があった場合。

 デッドリッグは、難しいかじ取りを任せられる覚悟を決めないといけなさそうであった。