第28話 姉弟弟子
全知全能神が齎すのは、『グッドエンド』であって、『ハッピーエンド』では無いらしい。
老師・岡本の言葉だ。
『グッドエンド』。
それは、『核戦争』による、核兵器をずっと保管しておいたものを、気持ち良く全て打ち出してしまうと云うものであるらしい。
何かの漫画に描いてあった。プラモデルは、完成後、爆竹で爆破し破壊する気持ち良さを得る為に作るらしい。
対する魔王はどうか。
自分の言い分さえ通れば、結果、『ハッピーエンド』であっても許容する。
但し、自分の言い分が通らなかった場合、『コロナ禍』のように、殺意すら持って邪魔な存在を消そうとすらする。
ベルゼブブは、『バッドエンド』を所望らしい。見た目通りに、悪趣味な奴だ。
『蝿の王』だから、氏神様であっても、蛆虫扱いで手下の子供みたいな感覚のようだ。
昼姫も、蛭扱いされて、イジメられた経験がある。
獅子座の産まれの宿命だ。
アタシは、『朝姫』だから、虫の名前を与えられなかったから水子として死んだ。
昼姫の産まれは、両親の執念による名付けと、アタシの魂の『宿り』と云う宿命の下に産まれた。
昼姫が元々太っていたのは、度重なる失恋による暴飲暴食に依るものである。
元々は、可愛らしい娘だったのに、その雰囲気の暗さから、一度目の失恋から太り始めた。
斎田の際は、五度目の失恋である。
過去最大限に太っていたから、痩せた後の変貌が凄まじかったのだろう。
全く、こんなに可愛い娘を振った一度目の失恋の相手、人を見る目無しである。
そして今、昼姫は、六度目の恋に落ちようとしていた。
相手は卯月である。
昼姫も慎重になっているけれど、今回は大丈夫そうだった。
女神様からのご加護に依るものかも知れない。
女神様……『Mega巳』様なのよね……。百万柱の巳神様。ソレが、『女神様』の正体であるらしいのだ。
昼姫自身、卯月を以前から、大切な『取引相手』として認識していたから、卯月の姿を認識する毎に、赤面している。
手を抜いている訳じゃ無いんだけど、今回の昼姫のプレイングは疎かだ。
微妙なオートトレードの希望条件の調節を、今回の昼姫は見逃している。
まぁ、視界内に卯月さんが居る内は、仕方ないわよねぇー。
別に、優勝したら賞金が出る訳でも無し。ある意味、手を抜いていても良い大会である。
だけど、本当は重要な経験値。
ソレを、昼姫は積み忘れている。
「……アレ?得点が低い」
ようやく気付いたわね。ならば、自慢の操作速度で、オートトレードの条件から見直しよ!
「……引き離されてる!」
序盤、独走していた昼姫だけれど、老師・岡本と卯月が、並んで得点のトップをひた走っていた。
それでも、昼姫は第4位だ。3位には『Venues』さんが上位2名から大分引き離されて昼姫のちょっと先を走っている。
失態と云う程の過ちは犯していないが、想定を少し上回られ過ぎている。
どうやら、『Venues』さんには追い付ける可能性はあっても、『TAO』と『Fujiko』さんには追い付けない。
流石に、もう手遅れだ。『Morning』は二人……否、三人からお零れを与って、頑張っても3位が精一杯だ。と云うか、3位すら、『Venues』さんの動向次第では厳しい。
オートトレードの設定を見直し、微調節し、何とか『Venues』さんより効率良く稼げている。
追い付くのは、時間の問題だ。そして、その時間の問題も、残り10分を切っている。
1分100年がゲーム内時間だ。だから、30分で3000年、トレードで競う事になる。
残り千年しかない。『Venues』に追い付けるものか、甚だ心配でならない。
そして、10分後。勝ち点が確定し、順位が挙げられてゆく。
1位、『TAO』。2位、『Fujiko』。そして3位は──僅差で、ギリギリ『Morning』が入り込んだ!勿論、4位は『Venues』で、5位は何処かの知らない人だった。
「昼姫君、油断したね?」
「申し訳ありません、老師。修行不足でした」
「まぁ、事情は何となく察しておるよ。
足りなかったのは、集中力だったね」
「はい……」
だが、ある意味、『集中力』は少し足りない位で良いと云う気もする。
『中』に『力』が『集って』は、調子に乗る国が出て来る。
それでも、『中心』に『力』が『集まる』のは、次なるビッグバンにとって、大事な事ではあるのだが、問題は、『世界の中心』を名乗っている国である。
故に、『Venues』は『Morning』に負けたのだ。彼女にとっては、このゲーム、『King』の順位を落とす事こそが重要であり、今回、『King』は参加していないのだから。
「ああ、そうだ、昼姫君。『Fujiko』君も岡本道場に参入する事が確定した。
君にとっては弟弟子だし、君は姉弟子になる訳だから、挨拶をしておくといい」
『Fujiko』さんは、レディーファーストとでも言わんばかりに、昼姫の挨拶を待っていた。
「はい!
『Morning』こと、天倉 昼姫です。宜しくお願い致します!」
「『Fujiko』こと、藤沢 卯月です。宜しくお願い致します」
色々確かめたい事とかがあるが、昼姫はひとまず、表彰式に備えて待つことにした。
「いやぁ、お世辞を言うような形になるので、控えたいのですが、最低限、言いたい事は言わせて下さい。
『Morning』さんがこんな美人さんだったとは、想像以上でしたよ。姉弟子。
優しそうな性格は、プレイングにも表れていましたけどね!」
「あの……メールでやり取りしていた『Fujiko』さんですよね?」
「ええ。恐らく、その『Fujiko』です。
美味しいトレード、毎度ありがとうございます」
「えっと……あ!表彰式が行われるみたいですね。
行きましょうか」
「ええ」
お互いに穏やかそうな性格同士。
このままだと、不満を溜めた時に爆発して破談になるんだぞと昼姫は自分で自分に言い聞かせながら、『Fujiko』をどう尻に敷くかを考えていた。
『Fujiko』の方も、まさか昼姫がそんなことを思っているとは、想像だにしなかったに違いない。