女王即位

第8話 女王即位

 プリンが出産から一週間ほどで体力的にも回復してきた頃、プリンのフェアリー・クイーン即位の儀式が行われる段取りが整えられた。

 それは、同時にジェリーの宰相への即位も同時にだ。

 フェアリー・クイーン即位によって、プリンの寿命も延びる。本来、フェアリーの寿命は約十年だ。が、女王になると、約百年にまで延びる。

 それこそが、ヨーグが玉座に拘っていた理由の最大のものだった。

 だが、ヨーグが捕らえられた今、プリンの即位を邪魔するものは無い筈だった。

 かつて、プメルフにも宰相がいた。エルフの、だ。

 その宰相は、プリンの父に該る。

 彼は、プリンの誕生の際にその瞳がヘテロクロミアであったことが原因で、宰相の座を辞し、旅立った。

 未だ現女王たるプメルフ曰く、フェアリーのヘテロクロミアは、『受難の相』でもあるが、その困難を乗り越えた時、『強い加護を持つ相』でもあるとのことだった。

 現在、プメルフ七十七歳。四年前にプリンを産んだことを考えると、相当な高齢出産であった訳だが、プリンがプメルフの末子である。伴侶が去った事で、その事が確定した。

 実は、『死に戻り』の加護は、プリンが生来、プメルフから授けられていた加護だった。子を宿しての旅と云う事情があって、『刻の加護』を新たに得たのだ。

 細かい『刻の繰り返し』を数えると、百を超える回数に至ったのも、当然の結果であろう。むしろ、受難が少なかったと言っても、『受難の相』を考えると、過言ではない。

「ワタクシの時には、千回近い『刻の繰り返し』を乗り越えました。

 あなたは、ワタクシの時と比べると、随分と『刻の繰り返し』が少なくて済んだようですね」

 そして、ジェリーの方を見て、「彼のお陰かしら?」と言い放つ。

「では、まずは戴冠から始めましょうか」

 そう言ってプメルフは、煌びやかな王冠を頭から外し、玉座から立ち上がってプリンの頭に王冠を載せた。

 跪いていたプリンは立ち上がり、玉座へ向かうと、そこに座る。

 その瞬間のことだった。──プリンが玉座に縛られたのは。

「ん!何これ!?動けない!」

 プリンは玉座に座ったまま、その座から動けない。

「──魔法に因る封印!?

 こんなもの──!」

 プリンは抵抗するも、なお立ち上がれない。仕方なしに、プリンは解呪の魔法を行使した。

「『解呪』──‼」

「ああっ……!」

 その直後のことだった。玉座から十三の光の珠が放たれたのは。

 光は玉座を囲うように半円形に並び、人の形を取ると、誰にともなく揃って言い放った。

『我ら、十三の魔王、大罪から放たれたり……!』

 言い放つなり、その十三の魔王は何処へともなく、光の珠になって飛び放たれた。

「どうやら、役目を終えたようね」

「今の、何だったの!?」

「……玉座に封印されていた、十三の魔王の残滓。

 本来なら、封印が解かれるにはちょっと時が早過ぎたんだけど、まぁ、それが女王としてのプリンの判断ならば、仕方がないわ。

 大罪から放たれた以上、『悪さ』をする根拠は無いのだけれど……。

 まぁ、封印されていた事実を前に、復讐に走る魔王が出そうなのが怖いところだけれども……」

「そんな大事な事なら、事前に言って下さい!」

「女王陛下」

 前女王プメルフが跪く。

「あなたの判断が正しいことを願います」

 そして、どこからともなく一本の錫杖を取り出して、ジェリーへと手渡す。

「あなたが『森の国』の宰相である証明となる錫杖です」

「──僕に?」

 プメルフは頷き、錫杖はジェリーの手に握られた。

「二人に、この国の未来を託します」

 託されたものが若干重過ぎるのだが、兎も角、『森の国』の未来はプリンとジェリーに託された。

 後に『子宝夫婦』と呼ばれる二人だが、それを見守ることなく、プメルフは此の世を去った。

 享年、八八歳。女王の座を退いてから、なお十年も生きたことになる。七人の孫に囲まれたベッドでの逝去であった。

 本人は百歳まで生きる!と言っていたのだが、それも叶わなかった。

 その最期は国葬され、『森の国』の平和を守った女王として歴史に名を遺した。

 尚、プリンは然程の『女王の座』に執着は無く、十歳になる頃には「女王の座を譲り渡す~!」と周囲のフェアリーに吹聴して回り、十七歳で玉座を退いた。

 同時にジェリーも宰相の座から離れ、プリンと仲睦まじくその生涯を過ごした。

 又、『刻の加護』はプメルフの死後も続き、傍知れず、苦難の人生を二人に齎した。

 女王候補には困ることなく、むしろ絞るのに苦難して、二人は女王候補達に旅をさせる選択肢を選んだ。『刻の加護』を与えて。

 その頃は二人が子作りに励んでいた時期でもあり、最終的に、やはりヘテロクロミアの子が次期女王に選ばれた。

 女王と宰相としての仕事は、忙しい時期は忙しすぎて、暇な時には暇すぎた。その余りのギャップに、プリンは耐えきれなかった。

 だが、ジェリーは宰相としては辣腕を振るい、精力的に仕事を熟していった。

 多分、ジェリーが仕事をし過ぎて、プリンの負担になるときは忙しくさせ過ぎて、ジェリーで用が済むところは、プリンに仕事を回さな過ぎたのだ。

 ジェリーと云う有能な宰相は重宝されて、プリンの引退後も!との声は多く、だが、ジェリーは夫婦仲を選んだ。

 プリンは年に一人か二人は必ずと言っていいほど子供を産んだし、女王候補は多かった。

 ただ、その全てに『刻の加護』を与えることが、如何程の苦行になるのか、二人は考えていなかった。

 何しろ、『刻の加護』を与えられた者同士では経験を分かち合うのだ。

 プリンが玉座を退くのが早かったのは、そう云った事情もあってのことだったのかも知れなかった。