第35話 女性軍人
「――あ……う……く」
呻き声を上げて、レズィンは目覚めた。
決して良い目覚めでは無かった。腕を額の上に持って行って、見覚えの無い服に違和感を覚えた。
ベッドに寝かされていることはすぐに分かった。周りを見回すと、仕切り代わりの白いカーテンと、窓から見覚えの無い風景が見えた。
昼か、それを少し過ぎた位の時間だろうと見当をつける。
覚えの無い場所に居る事が分かり、記憶を辿り出す。
――イマイチ記憶がはっきりしない。
今いる場所が病院らしい事から、何処かに怪我をしていたのだろうかと思い、急激に記憶を取り戻す。
同時に腹に手をやる。
「――痛くねぇ」
ベッドの上で身を起こし、下着ごと服を捲る。
傷口は綺麗に縫合されていた。傷口は背中まで突き抜けていて、そちらも触った感触では、同じ様に治療されていた。
この様子だと、内臓もしっかり縫合されているのだろう。
「――アイツラはどうなったんだ?」
自分の身が大丈夫であることが判ると、姉妹の事が気にかかった。
すぐにベッドから起き上がり、カーテンを開く。
その病室には他にもう一人がベッドに寝ているだけで、残りのベッドは空いていた。
病室からのすぐに出ようとしたのだが、出口で人とぶつかってしまった。
「おっと、すまねぇな」
「待て、レズィン!」
一言謝罪してから通り過ぎようとしたレズィンを、ぶつかって来たボーイッシュな女が呼び止めた。
振り返って顔を確かめたが、見た覚えの無い顔だ。
「――何か用かい、お嬢さん」
「名前を憶えてはくれなかったのか、レズィン。
――それとも、顔すら覚えていないのか?」
会った事のあるような口ぶりに、レズィンは記憶の糸を辿ってみた。
一見して男女の区別がつきにくく、会っているのなら覚えていそうなものだ。
胸の膨らみも小さく、髪形も男性的だ。
女性の知り合いばかりを思い出す内に、ふと、性別を聞いていなかった者の一人を思い出した。
「ひょっとして中将と一緒に居た――」
名前が中々出て来ない。やはりという風に嘆息し、彼女は名乗る。
「セシュール・マニッシュだ。
怪我はもう大丈夫なのか?」
「ああ。
アンタが女性だとは思わなかったよ。女性用の軍服はこの国には無いからな。
――俺の怪我のこと、知っていたのか?」
「私が部下を使って運ばせたからな。
ちなみに女性用の軍服は、計画だけは出ている。
それに、私は女のクセに軍人なのかと云われるのが嫌で男装している。
女と思ってくれなくて結構だ。
――そういえば、貴様のお陰で、計画は台無しになってしまった。
その責任はどう取ってくれる?」
「おいおい、閉じ込めるってアイディア出したのは、アンタだろ?
俺に責任を問われても困るぜ」
本気で困りながらもお道化た風にして誤魔化す。
セシュールも本気では無かったようで、そのことについてはもう触れなかった。
「何処へ行くつもりだった?」
「あの姉妹のところだ」
「無茶を言うな。あそこがどんな場所か、分かっているのか?
それよりも、彼女の様子は見に行かないのか?」
「――彼女?」
云われてすぐに、フィネットの事が思い浮かんだ。
だがセシュールとフィネットとの接点が思い付かず、他の人物の事を言っているのかと思ってしまう。
「フィネット・リヴァーだ。彼女も私の担当だ。
病室も近いし、見舞いに行ったらどうだ?
どうせ、病院からは出られないからな。他にすることも無かろう?」
「……出られない?」
あの姉妹と付き合っている時の感覚で、また何かとんでもないことが起こったのかとレズィンは思ってしまう。
「私が何のためにここに居ると思っている?
彼女の様子を見に行くのでも無かったら、本来はお前の傍を離れてはいけなかった。
頭の悪いお前にも分かるように言ってやろう。
私はお前の監視役を命じられた」
「『頭の悪い』は余計だ。……そんなに悪くもねぇし」
「私の名前すら憶えていなかっただろう?」
細かい事を気にする奴だなと、レズィンは思う。
覚えていなかったのは、単に印象が薄かったせいだ。
頭が悪いなどと、決して認めはしない。ましてそのせいでは決してないと、レズィンは断言出来る。
「案内してくれるのか?」