奢りのカラオケ

第5話 奢りのカラオケ

「というわけで、今日はコイツの奢りー!」

「わー」

 パチパチパチと、手を叩くのはパフェと緋三虎。
 
「……この人は?」

「久井 緋三虎。私の同級生。……初対面だっけ?」

「……うん」

 顔を赤らめるウィリアムに、パフェはちょっと不機嫌。
 
「ひょっとして、好みなの?」

「あ、いや!……じゃなくて、……えっと、その……」

 あからさまに動揺し、ウィリアムはもう、誤魔化しきれない。
 
「緋三虎は、どうよ?」

「李花さんから奪う気はありませんわ」

「だってさ。ざーんねーん」

 とても楽しそうに、ウィリアムの肩を叩くパフェ。緋三虎には、仲の良い二人に見えるのだろうかと思うと、ウィリアムにはかなり不満。
 
「僕は、パフェのものになったつもりは、ないぞ」

「ふーん……。

 じゃあ、二人で行ったら?」
 
 細めてウィリアムを見るパフェの視線は、とても冷ややか。ウィリアムはあまりの冷たさに凍り付いた。
 
 そんな雰囲気を察したのが緋三虎。
 
「三人で行きましょうよ、ね?」

 女性らしい、細やかな心遣い。というのに憧れるパフェの目には、そういう自然に良い雰囲気を作る緋三虎が、羨ましくて仕方がない。
 
 羨ましい?
 
 いや。パフェが緋三虎に対して抱く気持ちは、同性でありながら、異性への好意に近い。
 
「は、はいっ!」

 興奮気味に返答したウィリアムの、肩を掴んでパフェは囁く。
 
「ニ時間分、全額アンタ持ち。この子との仲を取り持つ条件としては、どうよ?」

「お、オーライ!」

「あのー、李花?」

 声質に、パフェがちょっと怯える。緋三虎の機嫌が、あまり良くない時の声色だ。
 
「な、何?」

「私、よく地獄耳って言われること、覚えています?」

 ヴァンパイアであるパフェと、普通に付き合える幼馴染が、普通の人間で無い事は、さほど不自然では無いだろう。
 
 親同士の付き合いからの仲だが、緋三虎の親が『ワータイガー』である事が、接点となった。緋三虎にも、その血は流れている。
 
「ははは……。

 ごめん、緋三虎には、コイツと付き合うつもりがないのね」
 
「そういう訳です。

 ごめんなさい、ウィリアムさん。
 
 今日のカラオケ代も、私の分は私が払いますから」
 
「いえ!是非、奢らせて下さい!」

「諦めが、悪い!」

 パフェは、ウィリアムの頭をド突いた。
 
 それも、ちょっぴり本気で。
 
 彼女の筋力は、生半可に鍛えている男程度よりは、遥かに強い。――否、ほとんど人間の持ち得る力ではない。
 
 それに、声一つ上げることなく耐えたウィリアムを、ここは褒めるべきであろう。
 
「テェール」

 その時、ウィリアムを呼んだのだろうか。どこからか、大きな声がウィリアムを責めたのだった。