第31話 天地創造
行き詰まった……。
厳密に云えばそこまで行き詰った状況では無いのだが、ムーン=ノトス自身にとっては、確かに行き詰まっていた。
後は、サトゥルやボレアスが成果を出してくれるのを待つか、或いは奇抜でも良いから、自分で案を出すか。
ひと先ず、ムーン=ノトスは『秩序の鬼』の量産を試みた。
恐らくは、近い将来に必要になる筈だ。『αシステム』を手に入れた者たちが、暴走してしまった場合に。
『秩序』と言うだけあって、『秩序の鬼』には、『αシステム』の機能にルールを定めることが出来た。
『機能の停止』とまで言う位の強制力を働かせるには非常に高い出力の『秩序の鬼』が必要となるが、『攻性機能の停止』程度であれば、同等の出力のコアだけで十分に可能だ。
それらを、自警団に安く買い取って貰う。
当面は、ソレだけで治安は良くなるだろう。
因みに、『混沌の神』が司るのは、『ルールを破ること』では無い。『秩序の鬼』は『ルールを守ること』を司っているが、『混沌の神』は、『ルールを作ること』を司っている。
混沌にルールを作り、世界を作り上げる。ただの『混沌』だけの存在であれば、ルールが無いのだから、安定した『世界』にはならない。
そこにルールを作ることで、『世界のシステム』として機能させ、そして――
そこに一つの『世界』が出来る。
そして、『大地』が出来た時、そこに女神が誕生し――
そして天地創造に至る。
恐らくは、そのように世界は誕生したのだろう。
仮説を立てたところで、実際に天地創造の様子を見る事など出来ないし、ビッグバンから発生した宇宙は、コレとは違う手順で出来上がったのかも知れない。
ただ、神話による天地創造も、馬鹿に出来たものではないというだけの話だ。
「だからと言っても、それがどうしたと云う話でしかない、か」
そうなのだ。事実確認も出来ないのに、それがどうしたと云う話でしかないのだ。
無限に広がる混沌の海。そこから誕生する宇宙とその接点。だがしかし、その接点から他の宇宙に行けるでも無し、向こうからは来ることが出来るのかも知れないが、こちらから行けるので無くば、自主的にその宇宙の住人と会える訳でも無い。
ムーン=ノトスとて、光の速度やそれ以上で宇宙空間を自由自在とはいかないのだ。
「少なくとも、『正義』と『悪』のコアは存在し得まいな。そんな、主観から見てどうのこうのという属性のコアなど、存在する意味があるまい」
例えば、『コレが俺にとっての正義だ』と定義しても、それと対立する正義が他にあった時、勝った方が正義でもう一方は悪、というのは余りにも短絡的だ。
ソレでは、戦って勝てる方が正義となってしまう。
しかし現実には、『勝てる悪』と云うものも存在する。むしろ、勝つために手段を選ばないのならば、『勝てる悪』の方が多くはあるまいか?
そこまで考えたところで、ムーン=ノトスは思考を止めた。これ以上を突き詰めても、そこに突き詰める程の価値はあるまいと考えて。
とりあえずは、『秩序の鬼』を、自警団に売りに行く。
まずは10個。ソレで足りないようならば、追加生産する。
そう思い、『秩序の鬼』のコアを、緩衝材で包んで袋に入れ、自警団の方に行くことにムーン=ノトスは決めた。