大規模アップデート

第30話 大規模アップデート

 昼姫がその日、老師・岡本道場に顔を出すと、世界ランキングトップ3と、卯月とが睨み合っていた。

「ちょ、ちょっと!皆さん、どうなさったのですか?!」

 昼姫にしては珍しく慌てて、その間に割って入った。

「大丈夫よ。めてる訳では無いから」

「ええ、その通りです、昼姫さん。

 僕が、コツを教わろうと思ったら、『今後しばらく、私達との対戦時に優遇しなさい』と言われただけですから」

「あ、ソレそのものが、既にコツです。

 言う通りにしたら、得点跳ね上がりますよ?」

「え!?それ、本気で言っています?!

 それそのものが既にコツなら……。

 僕に、上位3位は渡さない、って云う事でしょうか?」

「そもそも得点で迫って見せなさい、って事ヨ」

 部外者……では無いが、美鶴がそう言う。

「『三人寄れば文殊の知恵』を実践しているのがあの3人ヨ。

 そもそも順位1つ違いでダブルスコアはお呼びじゃない、って事ヨ」

「むぅ……、確かに……」

 卯月はそれだけで納得してしまった。

「何?皆、揉め事は終わった?!

 なら、ちょっと聞いて。

 この度、『TatS』に大規模アップデートが行われる事になりました。

 改善点は、大きくは一つ。

 価値観の違い過ぎによる、高倍率トレードについて、以前から不満の声が多かったと云う事で、勝ち点の差が余り大きくなくなるようになりました。

 具体的に言うと、最大のトレード幅から見て、1/3位への縮小。

 今後は、『2.3倍対3.2倍』位のトレードが最大規模の主流になると思われます。

 あと、最新世界ランキングで、『Morning』さんが第17位に入りました!拍手!」

 パチパチパチと拍手が昼姫へ贈られる。

「やはり、ホープだったわね」

「あの操作速度は異常でしたヨ」

 『プリさん』と『Venues』は、道場内の男性陣を蹴落とす人材として、昼姫に期待しているらしかった。

 その反面、男性陣は。

「高得点トレード行えば勝てるだろ」

「そして儲けた利益を、『Morning』さんに貢君みつぐくんとなって、『プリさん』を蹴落として貰おう。

 協力してくれるよな、『Fujiko』さん」

「え?ええ、昼姫さんにトレードを優遇する位はしても良いかと思っていましたけれど……」

 昼姫を除く全員をひと睨みしてから、卯月は言う。

「皆さんにまでトレードを優遇しなければならない理由が判りません」

「だって……優遇し合った方が、圧倒的に儲かるもンだからよ」

「道場内では、基本的にお互いに優遇する。この道場のルールの一つだぜ?」

「なら、皆さんは僕に優遇して下さるのですか?」

「当然!」

 『Kichiku』は即座に断言した。

「『優遇には優遇で返す』。このゲームの基本だろうがよ」

「あー、皆の者、もうちょいだけ話に続きがあるのぢゃよ」

 岡本は拍手の後の会話に割り込むタイミングを、ココで見出した。

「かつて、『人工知能プレイヤー』が居た事は知っていると思うが、その仕上がった人工知能が、これからも進化し続けて行きながら、このゲームをサポートする事になった。

 コレは、ゲームに大きな影響が及ぶと思われる。

 今後、勝ち方のノウハウを、この道場内で築き直す事にしようかと思う。

 そして、『Fujiko』君が加わった事で、ノウハウの蓄積がし易くなるものと思われる。

 皆、協力しながらも切磋琢磨する事!以上!」

「皆、取り敢えずバージョンアップに備えて、盤石の協力体制を整えるわよ!

 『Fujiko』さんも済まないけれど、この道場は一つのチームなんだ。

 だから──協力し合ったら、どの位の点数が稼げるものか、試してみたくはない?

 多分、バージョンアップ後には、二度と稼ぐ事の出来ない位の得点を狙える筈よ?

 まぁ……一匹狼で居たいなら、止めはしませんが」

 それに対する卯月の返答は。

「──そんなに稼げると云うのならば、どれだけ稼げるものか、見せて頂きたいですね!」

「良く言ったわ!

 貴方のターゲットは『Morning』さんと決まっているって聞いたから、あの二人を蹴落とす位に稼がせてあげるわ」

 その時の『プリさん』の笑顔は、怪しかったと皆は後に揃って言った。

 そして『プリさん』と『Venues』は、昼姫を手招き、「協力してあげるから、二人であの二人に勝ちなさい!」と言うのだった。

 それに対して卯月は、「スマホでのプレイングに慣れていないんで、実力の半分も出せるか、自信がありませんが……」と言うが。

 まさか、勝負する前から負けるつもりでなど、居る筈も無かった。

 後に昼姫は、卯月が『Kichiku』と『Victory』の二人に、「お二方には負けません!」と宣言してから勝負を始めたのを、「カッコ良かった!」と惚れ直すのであった。