夕飯の報せ

第3話 夕飯の報せ

『ご飯です』

 スマホが鳴った。合成した音声で。
 
 夕食の時間を報せたらしい。それに間に合わせたかったと云う事だろう。
 
 夕食は、ある程度、しっかり食べた。昼が遅めとは言え、素うどんだけだと、船酔いが醒めたら腹が減っていた。
 
 今夜は半徹の予定だし、夜食は食うとしても、しっかり食べたい。
 
 そう思って並べられた料理を見て、俺は少し驚いた。
 
 このメニューで、誰か、追加で代金を払ってまで、違う料理を食いたい奴はいるのか?!
 
 バイキング形式だが、ラーメンまである。麺の煮込み待ちと云う側面があるが。
 
 人数がバイキングをするには少ないから、それぞれの量は少なめだが、どれ一品取っても、確実に何人か食いたい奴がいる、鉄板のメニューばかりだった。
 
 カレー、寿司、ピザ。サラダも確実に無くなる量だが、「こんなの誰も食わねぇよ」と云うメニューが無い。
 
 たこ焼きを見付けた瞬間、即決でお盆に乗せた。
 
 何の為?――多分、不満が出来る限り生じないようにだろう。
 
 ただ、コレが続くようだと、不満が出るだろう。明日以降のメニューが気になる。
 
 食いたい物が山ほどあったが、数点に絞ってしっかりと。
 
 一時間を掛けてゆっくり食べたが、品切れ数品はあったけれど、食べようと思えば何らかが残っていた。
 
 最後に、エスプレッソを飲みながら、チョコを摘む。――恐らく、高級なチョコだ。日本でコンビニで買って食べるようなチョコとは風味が違う。
 
 カカオのほろ苦い風味が、美しいほどに香り高い。
 
 少しばかり薬を思わせる味が賛否を呼びそうだったが。俺は、明日も食べたいと思った。
 
 集会所の近くに、様々な施設があって、ソレを取り囲む形で、居宅が並ぶ。24時間営業のコンビニまであった。
 
 ココに一生住みたいと思うまで、三日も掛からなかった。TVゲームばかりやっているのが勿体無く感じて、色々、見て回った。
 
 釣りをやっている奴も居た。竿も売っているらしく、釣った魚を捌いてくれるサービスもあるらしい。
 
 入れ食いとまではいかないが、そこそこ釣れると言っていた。鮮やかな色の魚を、釣果ちょうかとして見せてくれた。南国の魚のようだ。
 
 初日は気温が低くて分からなかったが、緯度は低いようだ。春なのに、半袖一枚で物足りる。勿論、泳げる。
 
 狭いが砂浜もあって、監視員がいた。泳ぐのを禁じる為じゃない。溺れる人がいた時に対応する為だ。
 
 現に、女の子と戯れる為に砂浜で遊んでいる若い奴らがいた。
 
 体育館もあった。バスケは試合出来る人数が集まっていなかったが、意外に、卓球をやっている奴が多かった。
 
 皆、それぞれ楽しくやっているんだ。俺一人、孤立して引き籠っていても楽しく無かろう。
 
 何か、出来る事が無いかと探して、ソコに行き着いた。
 
 カードゲームのショップだった。
 
 トレーディング・カード・ゲームは、少し齧った事がある。然程強くは無いが、遊びで回すぐらいなら出来る。
 
 だが、そこで売っているカードゲームは、見たことの無いものだった。
 
「君も、やるかい?」

 店員さんが声を掛けて来た。……白衣だ。
 
 そう言えば、砂浜の監視員以外は、研究員側の人達は、皆、白衣を着ている。
 
 コンビニの店員もだ。
 
 それによって、区別を付けられるようにする狙いがあるのだろうか?
 
「このゲーム、知らないですよ?」