第37話 変革者サタン
ちょっと、危機意識に欠けていた。
俺は俺の人生を振り返って、そう思う。
『殺す』だの『死ね』だのと云うパワーワードを、無視し過ぎた。
結果、三重死。精神・社会・経済的な死を、一時期は迎えた。
今もなお、自らに掛けた呪いの呪縛から解き放たれていない。
何故、呪いを掛けたか?サタンだけは、憤怒を司っているだけに、話の通じない相手だと思ったからだ。
だが実際は、俺の行動力のエネルギー源だった。
この世の仕組みになど興味は無かった。
なのに、いきなり突きつけられて、実際にその通りである事を悟った。
『この世は思い込みで出来ている』。
実際には、『理に適った思い込みは、その通りに作用するよう、ナノマシン的な存在が法則を定める』だ。
俺は、『怒りは鎮めた』。
なのに、時々発作的に過去の出来事への怒りが湧いてしまう。
今が良ければそれでいいじゃないか。
そうとも思うが、今が決して良い状態じゃない事が問題なのだ。
過去の積み重ねにより、現在、成功の出目の一つも無し。
アンベールした時も、大した効果は無かった。
いや、却って厄介事が増えた。
多分、2027年を無事に迎えれば、世界の何かが大きく変わる。
それを、良い方向に変えるには、相当な試練が必要だ。
――50を超えて生きる必要がある。
坂本龍馬が通った道だ。乗り越えるには、今回の輪廻からでも良いから、何かを大きく変える必要がある。
ソレが何なのかは、俺には未だ片鱗として見えてはいない。
多分、坂本龍馬も『サタン(変革者)』だったのだ。
その運命から逃れる為に、『坂本良馬』と宿の台帳に記名し、『龍(ドラゴン)』たる運命から逃れようとしたのだ。
俺は、何を変革すべきだろうか?
サタンが酷く残酷な犠牲者であると云う事実を伝えたところで、誰も同情などはしないだろう。
人生に於いて、勝ち目が無い。その事実が、どれだけ悲惨な運命であるのか。
ただ、世界の終わらせ方を知っている。
その手段をどれだけ封じようと努力しても、他のサタンの影響で、ならばいっそ世界を終わらせてしまえと云う道に進む可能性が高いと云う運命がそうさせるのか。
――分からない。
敢えて言うとすれば、人類は、宗教に依存する必要のない文明レベルへと到達している。
人類は、宗教を放棄すべきなのだ。
宗教は、狂気の断片だ。
だからと云って、全ての家庭から仏壇や神棚その他を破棄させると云うのは、ちょっと違う気がする。
仏様になったからと云って、遺影を飾るのを止めろとは言い難い。
サタンを排除するため?お前らこそがサタンを誕生させておいて、その犠牲者を排除する?恐らくは大真面目なのだろうが、日本語の妙として、こう言わせてもらう。――フザケルナ、と。
サタンが排除されたら、どうなると思う?――また新しいサタンが誕生するのだ。正確には、お前らが誕生させるのだ、反サタン派の宗教団体!
そもそもが、反サタン派の宗教を信仰している家庭の子供が、『アイツ、サタンだ!』等と決め付けて、イジメ尽くした結果、サタンとして覚醒するのではないか?
サタンは、イジメ尽くされた辰年及びドラゴンの運命の持ち主だ。
そりゃ、イジメ尽くせばサタンになるだろうよ!『サタン』とはそう云う存在なのだから。
犠牲者を出すヨゲンをしておいて、犠牲者を生み出す行動をして、そして出て来た『サタン』と云う犠牲者は討伐かよ!
全部、お前らがお膳立てして、その自分を『正義』とか『勇気』とかと言うかよ!
始末するなら、全サタンを一気に始末しろよな!その手段は『公開処刑』と云う形で構わない!
だが、他国のサタンをお前らは始末出来るのか?!
出来るものならやってみろよ!ああ、もしかしなくても、戦争になるよ!惨劇がお望みなのだろう?
俺のオチは、恐らく暗殺だ。なぁ、〇山。ナイフ位、いつも携帯しているのだろう?
ああ、今日はやけに神成り(雷)が五月蠅いなぁ。
激しい雷雨だ。恐らく、レベル7到達者の誕生が原因だろう。
しかも、堕ちてるなぁ。新たなる『七大魔王』の誕生を、祝って良いものかどうか……。
とりあえず、俺のセンサーには引っ掛からない。
いや、『天崎』で止まっているから、気障野郎に取って変わられ、特殊感知能力は今の俺には無いのだろう。
……ん?もしかして、『七大魔王』ではなく、『クトゥルフ』様の覚醒かな?
『偶然』では片付けない。但し、正解では無いのかも知れない。
――あ!『the Lovers』のイベントをある意味片付けたから、『the Chariot』に至ったのかも知れない!
だからと云って、どうと云う事は無い。ただ単に、俺に『恋人』や『伴侶』が現れる可能性が消えたと、ただそれだけの話なのだから。