第47話 地球破滅迄あと――
一方で隼那と恭次の二人は困り果てていた。
「本部の支払いが、こんなに渋るとは思わなかったわ!
なら、『Swan』で荒稼ぎするのみよね。
何か、向こうの知らない切り札を持っておかないと、不安でたまらないわ!」
「でもよぅ。インターネット上に情報が残るんじゃ、いずれ気付かれるんじゃねぇの?」
「だ~か~ら~、紗斗里ちゃんに『切り札』の準備をお願いしたかったの!極秘で、サイコソフトとその存在は秘匿して貰って。
でも!……あの阿呆が死んで、この世界が時間ごと凍り付いたら、モスクワ大震災が起こるかも知れない。
侵略はしていないし、しない。でも、天罰――この場合、地罰かしら?を下せる――いえ、この場合は震わせるかしら?その可能性が現れたわよ!
しかも、殆ど観測者が居ない、限られた者しか知り得ぬ、ある意味『ヨゲン』だから、それ相応に『ヨゲン』の成就する可能性は高いわ!」
「でもなぁ……。その大震災が起こった場合には、あの阿呆が死んで、この世界が時間ごと凍り付いた後だろう?
意味無くねぇ?」
「解ってないわねぇ。
コチラは、アチラに『トリガー』を引き渡したの。
もしも、その『トリガー』を引くなら、自滅の可能性を秘めている、ってね。
首都機能が壊滅状態の国の軍隊が、そうそう勝てるだなんて思わない事ね!って云う脅しよ!」
「ソレって、脅迫罪になるんじゃ……」
「自然災害の『ヨゲン』が、どうして脅迫になるのよ?」
「でも、世の中の成り立ちを解っていた上で『ヨゲン』するのは、如何なものかと思うのだが……」
「そんな事を考える余裕があるのなら、終末時計の現在時刻と、終末時計が終わる時の再計算でも頑張りなさい!
尤も、そんな時刻は、世界を滅ぼすつもりの人間が核兵器を放つ権限を持ち、ソレを行使すれば、瞬間的に終わってしまうけどね!
それでも、私は世界の発展度合いは7割と主張するわ。
そして、それが10割になった時、世界は即座に破滅するか、ゆっくりと破滅に向かいながらも安定した平和な世界が続くかのどちらかだと私は宣言するわ!」
「再計算か……。少し頑張るか……」
地球の誕生した年が約46億年前。終末時計は、一般に残り1分30秒とされている。
23時58分30秒までに、約46億年掛かった。30秒につき、約160万年に当たる。
「……ん?」
恭次はソコまで計算して気付いた。
「終末時計の終わる時間まで、約480万年かかる?」
ハハハッ。ハハハハッ!
恭次は嗤った。その数値の示す意味を考えて。
「何だ。西暦480万年位まで、地球が滅ぶ可能性は極めて低いじゃないか!」
「計算出来たの?」
「ああ!努力義務はあるが、地球が滅ぶと云うのは、余程の事だぞ?」
「まぁ――ムーンの伴侶だからね」
「だが――あの阿呆に伴侶も子も無い。
あの血、ある意味ゴミのようだが、失わせるには余りにも勿体無い逸材だぞ?」
「――アイツは、怖いのよ。第一子が亡くなり、その加護を受けた第二子が、生きたとしてもイジメられて苦しい人生を送る可能性が高いと云う事実が」
「――そうか。その大罪をも引き継ぐ可能性が高い事を、既に悟っているか」
「ウチのメンバーが、見染められるならそれに越したことが無いのだけれどね」
「だが。ソレでもアイツは、人を信じる事など滅多にしないだろう」
「ソレが難点よねぇ……」
あと約6ヵ月。ソレが、人を信じて付き合う可能性のリミットだと、二人は知っていながらに何ら行動に移すことが出来ないのだった。