第22話 土鉄の酒屋
『土鉄の酒屋』
そこは、店内に居るだけで酔ってしまいそうな、酒の香りで満ちた場所だった。
「いらっしゃい」
店員も、土鉄族の男。どうやら、匂いだけで軽く酩酊状態のようであった。
ムーンは店内をザッと見渡してから。
「店主、土鉄の技師にオススメの酒はあるか?」
「あー、なら『土鉄の火酒』――」
「それ以外で、だ。『土鉄の火酒』を好む奴に、ロクな技師が居ないんだろ?
好まれるもので――そうだな、珍しい酒はあるか?」
店主はそう言われて店内を歩き。
「『土鉄の赤酒』。コイツは間違いない。
だが、もしオヤッさんの事を知っていて、オヤッさんに渡したいのなら、『土鉄の黒酒』。コイツは滅多に手に入らない。
まぁ、黒い酒なんて、物好きな腕利きの技師が、チョビチョビ飲むのに好まれる程度で、普通の土鉄は気味悪がって飲まないけどな!赤い酒は好んで飲むクセにな!」
「なら、『土鉄の黒酒』で頼む」
「――マジかい。いや、マジなんだろうな。
申し訳ないが、高いぜ。何せ、『幻の酒』とも言われる位だからな」
「恐らく、問題ない。幾らだ?何本ある?」
「二本あるが、お一人様一本限りで頼むよ。代金だが――」
そう云って提示された金額は、ムーンにとって問題の無い金額だった。
ムーンはそれを、亜空間に収納して、大事に運んで、土鉄の里を訪れるのだった。――空を飛んで。
一刻も早く。そのムーンの思いが、如実に表れた電光石火の行動だった。
そしてそんな様子のムーンを、これから土鉄の里の人々は迎え入れるのだった。
そしてそれは、一部の物好きには歓迎したい出来事であったが、その他大勢の土鉄にとっては、残念な出来事であったのだった。