国遊戯

第7話 国遊戯

 昼姫が順調に上達して行っている頃、アタシは内心、嫉妬していた。

 魔王が何をやっているのよ!アタシに討たれなさいよ!と思い、呪詛じゅそを掛けた。

 結果、昼姫は入院した。そして、アタシは身体のコントロール権を手に入れた。

 だけど、余りにツラくて、泣いてばかりいた。

 その内、脳に電極を通して記憶を消す手術が行われ、昼姫が目覚めた。

 昼姫が目覚めると、身体のコントロール権はアッサリと取り返された。

 入院中、昼姫は一人で『Trade around the Star』でランキング上位を狙うのだが、ようやく、半々位の確率で上位3桁の順位に手が届くようになった。

 所詮、こんなものなのよねと思い、アタシは昼姫の人格の裏に隠れた。

 もう、一生、昼姫の裏に隠れているだけなのねぇ、なんて思いながら。

 だけど、チャンスは思いがけないところから運命が転がり込んできた。

 退院後、昼姫は自力で立てないと云う位に肉体が衰えていた。

 ソコへアタシが、身体ごとの乗っ取りを企んだんだけど……。

 結果から言えば、半分成功。でも、意識のコントロール権は昼姫にあった。

 身体の半分をアタシが乗っ取った事で、昼姫は一人で立って歩けるようになった。

 それでも、意識のコントロール権までは奪えないものの、人格の半分を乗っ取る事は出来た。

 アタシはそれで満足する事にした。

 そして、昼姫は退院後、頑張って『にっこりステーション』に通っていたものの、その通院する体力すら残っていない事に気が付いた。

 だから昼姫は自宅で『Trade around the Star』に必死に取り組んでいた。――偶に、『にっこりステーション』に顔を出して、岡本に師事して貰いながら。

 まるで、ソレで『プロeスポーツプレイヤー』を目指すが如く。

 その活動の中で、岡本は当然だが、昼姫は『Fujiko』と云うプレイヤーに対抗意識を向けた。

 その時期、『Fujiko』さんは儲けは大きいがピーク寿命が短い『鉱石型惑星』を引き、順位1桁に迫る勢いであった。

 そして、昼姫は岡本は勿論、『Fujiko』とも積極的にトレードして行った。

 理由は、『良い条件でトレードしてくれるから』だ。

 勘違いしないで欲しいが、『お互いに得するトレード』をしてくれるのであって、トレードで優遇してくれる訳では無いのだ。

 ココを勘違いすると、このゲームでは勝てなくなる。

 パッと見、得するトレードかと思うと、あからさまにトレードによる勝ち点倍率の高いトレードばかりをすれば良いと云う訳では無い。

 その最たる例が、食糧だったり原油だったりする。

 人を増やす為には、食糧が必要だ。そして、加工貿易をする為には、エネルギー源たる原油が必要になったりしてくる。

 そう、昼姫は真珠の生産体制が整っていると云う理由で、宝石類の加工貿易で儲けているのだ。

 コレは、『海洋型惑星』の最たる特徴と言える。

 貝の養殖と並行して、真珠の養殖も行なう。コレが、中々際限なく儲ける手札になるのだ。

 『鉱物型惑星』は、残念ながら、明確に産出する資源に限りがあり、何度か高い順位を叩き出しても、直ぐに儲けられなくなって、惑星の切り替えが求められる。

 その点、『海洋型惑星』のピーク寿命は明確に長い。

 岡本が3度惑星を切り替える間、昼姫はずっと一つの『海洋型惑星』の環境でプレイして来た。

 故に、『海洋型惑星』での立ち回りを覚え、順調に順位を伸ばしていったのだ。

 だが、それにもいつかは限りがある。ただ、当面、その『限り』と云う奴を感じるほど、昼姫の惑星の産出する資源は衰えを知らなかった。

 岡本が惑星を切り替える事、7回。ようやく、昼姫の惑星にも、その『限り』って奴が見えて来た。

 ただ、目に見えて資源が減っている訳では無い。

 ただ単に、住民の少子高齢化によって、人口のピークを過ぎたのみである。

 『全ての文明は少子高齢化によって滅びる』。一つの真理である。

 又、『eスポーツ』にも、一つの変化が出て来始めた。

 先進国による、『国遊戯』の制定である。

 それは、日本でも例外では無かった。

 候補は、二つ挙がった。『パーソナル・ファイター』と『Trade around the Star』である。

 果たして、実際に制定されたのは、『Trade around the Star』であった。

 『戦いよりも貿易を!』。それが理由である。

 世の中に、『真理』を知る者が多くなって来た。そう云う事かも知れない。

 だが、『真理』と云うものは、見る者によって姿を変え、一人として同じ『真理』を見る者は居ないのだ。

 『常世』『真実の世界』『世界の裏側』『真理の扉の向こう側』。呼び方は幾つかある。

 だが、果たしてどれが正解なのかは、判らないのである。

 或いは、『真理』に近付き過ぎたが故に、人は滅ぶのかも知れなかった。