国動く

第45話 国動く

 そして、国が動いた。

 何事かと云うと、デッドリッグに対する不名誉な呼び名の件である。

 それは、命名した皇国家をおとしめる行為だと、特にイデリーナとダグナが責められたが、バルテマーの婚約者と云う事で、反省文で済んだ。

 因みに、二人の両親も反省文を書かされ、二人は親からこってりと怒られた。

 コレに因り、デッドリッグをあの呼び方をする事は、国への反逆行為と見做され、場合によっては重い罰を課せられる事になった。

 そして、監視の目が行き届くことで、『飛車』の存在が明るみに出た。

 国は、ソレの作成事業を国の事業とし、学園には正式に『飛車部』が創設され、部費も支給された。

 その代わり、デッドリッグの持つ技術の全ての聞き出しが行われた。

 だが、肝心の『龍語魔法』を理解できる者が少なかった。

 デッドリッグとしては、英語での命令が最も性能が高いと思うのだが、『龍語魔法』を真に理解した時、その『龍血魔法文字命令』の性能は、ピカイチだろうと思っていた。

 ソレが故の、『龍語魔法』の講師の先生のスカウトが為され、急遽、『龍語魔法』の新しい講師が職に就いたが、その理解度は倍ぐらいの差があった。

 伊達に何年も『龍語魔法』の講師をしていたのでは無かった事が、コレで判明した。

 因みに、ドラゴンと人間の声帯の違いから、発音に因る『龍語魔法』の行使はほぼ不可能であり、講義では『龍語魔法文字』による『龍血魔法文字命令』の教授が行われるのみだ。

 そして、デッドリッグはある日、気が付いてしまった。

 『龍語魔法文字』は、一覧表にしてしまうと、日本語を片仮名なり平仮名で、対応する文字違いの言語であると。

 そうして、一覧表にした文字から、『龍語魔法文字』を学び取って、『龍血魔法文字命令』に英語の代償として使う事で、英語の約2倍の性能が引き出せるようになった。

 約2倍と云うのは、全ての性能が約2倍も違うと云う意味では無く、平均すると大体その位と云う話だ。

 『飛行魔法』については、『龍語魔法』の得意分野で、少なくとも3倍の性能を誇る。──『飛車』にはもってこいだ。

 そして、国からはデッドリッグに対して、『飛車』用のコアの作成の依頼が続けざまになだれ込み、報酬は良いものの、デッドリッグはちょっとした忙しさに四苦八苦するに至る。

 両親である皇帝・皇后からの励ましとお褒めの言葉の手紙が届き、一喜一憂した。

 お褒めの言葉に喜び、コア作成の激励の言葉に、現金なものだとうれいたのだ。

 国に急遽設立された『飛車研究機関』と『飛車部』との間では情報のやり取りが引っ切り無しで、開発が大幅に高速化された。

 そしてそんな折になって、国が探していた『デッドリッグ』の不名誉な呼び名の本当の言い出しっぺが割り出され、『懲役5年』と云う厳しい処罰が課せられた。

 それは単なるモブの一人なのだが、彼は勉学に励む時間すら奪われ、強制的な重労働を課せられる。

 名前を聞かされても、デッドリッグもバルテマーも『そんな奴、居たか?』と云う認識だったのだが、ダグナとイデリーナに言わせると、反省文にその名を書いた、とのこと。

 つまりは、ソレまで、二人の反省文は読み進めていられなかったと云う事でもある。

 二人が相談の余地の無い状況下で書いた反省文で、その名だけが明確に一致していたことが、皇家に確信を持たせた。

 本人に問い詰めると、最初は否定していたが、『鞭でも打とうかの?』との皇帝の一言で真実を暴露した。

 序でに噂を広めるのに協力した数名も、反省文ながら、処罰が下された。

 コレは、立派では無い悪しき前科である。将来に、諦める道が幾つか出る位の影響力はあった。

 立派な前科とは、何らかの社会に貢献する行いを指して言うべき言葉だ。悪しき前科に対して付けて良い枕詞まくらことばでは無い。

 閑話休題。

 兎も角、皇国は、『飛車』の開発を進め、新たな移動・輸送の手段として用いようとしていた。

 試作機までの作成は早い。『飛車部』が作ってあったからだ。

 ソコから、構造を検討し、無駄を省き、効率を高める。

 その上で、安全性を維持するのだ。半端な作業では無い。

 コアを動かす技術は、『飛車部』のやり方をほぼ踏襲した。

 コアを専用の枠を作り、必要な位置に移動させるだけの可動範囲を各コア毎に設定するのだ。

 その時、『飛車部』の試作機では『ベクトルコア』を全方位に位置させる事を可能とした機能を、皇国飛車対策部に於いては、前方の半球範囲に制限を試みた。

 結果、ソレは『飛車』を収納する際に、次回の発進用に後方から入れねばならないと云う事情から、設定を『飛車部』の試作機の設定に戻した。

 技術者たちは、『結構考えられているなぁ』等と高評価だったのだが、その言葉は『飛車部』に伝わっていない。

 方向が関係あるのは、『ベクトルコア』を始めとした一部のコアのみであり、他はメインコアやサブコアとの距離に関係がある。

 よって、ベクトルコアが方向を変える場合、『コアエンジン』のボックス丸ごとを動かす設定になっている。

 これに関しても、皇国飛車対策部は大きな改善案を出せなかった。

 故に、車体は『コアエンジンボックス』が大きな体積を占め、荷物の積載に関しては、車体を大きくするか、荷物を牽引する方法が考えられた。

 しかし、牽引型はスピードを出した際に牽引ロープが切れると云う可能性を考えられ、車体は自然と、大型化を試みられた。

 この際に、重要だったのが『ギアコア』だった。『オートマチック』と云う形式を知らないが故に、マニュアル化が施されていたが、『飛車部』はちょっと事情が違った。

 何しろ、車の『オートマ』機能を知っているデッドリッグが監修するのだ。ある程度の『オートマ化』が、既に考えられていた。

 因みに、未だ皇国飛車対策部では、コアの作成にも成功していない。

 ソレは、デッドリッグを除いた『飛車部』でも事情は同じなのだが、まず、ミスリル銀──水の『アルフェリオン結晶』の入手から困難なのだ。

 デッドリッグは、転生前からミスリル銀に対して、『水の「アルフェリオン結晶」なのではないか』との仮説を持っていたし、転生記憶回復直後に魔法での作成に成功している。

 故に、ミスリル銀は加熱し過ぎると融けると云う性質を持っていた。

 その為、ミスリル銀の武器・防具と云うものは、最初からその形に作るか、削り出す他に、加工の仕方が難しかった。

 「アルフェリオン結晶」は強固なので、100℃でも融けないが、流石に1000℃は融ける。

 そして、鍛造と云う手法は、力を強く籠めなければならない一方で、力を強く籠めすぎると結晶が壊れて融けてしまうので、鍛冶屋泣かせの金属(?)なのである。

 序でに言えば、銀にも性質は近い。体積とかは、殆ど一致する。電気抵抗も殆ど変わりが無いが、ソレを利用する技術は、今の皇国には無い。

 故に、ミスリル『銀』なのだ。

 コレを作る技術が無い限り、コアは作れない。ついでに『龍血魔法文字命令』も記す必要があるし、今はデッドリッグの専用技術だった。

 だが、皇国飛車対策部から、製法を教える依頼は来るだろうなと、デッドリッグは覚悟しているのであった。