第36話 団体戦結末
美菜姉ちゃんの見立て通り、大番狂わせが起きぬまま、団体戦・個人戦共に、ベストエイトが出揃った。
敢えて言うならば、ケントが未だに勝ち残っている事が、美菜姉ちゃんを少し驚かせた。
予想と違っているのは、その程度だ。
俺とジャンヌJr.の試合は、接戦になると思いきや、意外に俺の圧勝で終わってしまった。
あの分身が無い上、ガード必殺も防御力の基本値が低い為、ショットガンの格好の餌食でしか無かった。
本家ジャンヌ・ダルクの、あの強烈無比なガード必殺が無ければ、やはり降籏さんの行動パターンを組み込んでも、強くはならないらしい。
『――早くも準々決勝となった訳ですが、団体戦では一戦目から注目の好カードとなりました!
決勝トーナメント一回戦で昨年の優勝チームであるパンツァークロイツァと当たりながら、見事に勝利を収めた新撰組チームに対して、シンクリストを世に生み出した会社である、スピリットの送り出した最強の刺客、プレイヤーを持たぬキャラクターたちのチーム、パンツァースピリット!
どちらも圧倒的な強さを見せて――』
「いいな、打ち合わせ通りにやろうぜ」
アナウンスが流れる中、ケントの言葉に、俺たちは黙って頷いた。
筐体に入ってしまえば、それ以降は確たるコミュニケーションは取れない。
美菜姉ちゃんの助言の下、僅かな空き時間を利用して立てた戦術だけが、頼りとなる。
この試合こそが、事実上の決勝戦だ。
他にも個人戦で昨年の優勝者が率いるチームが残っているが、美菜姉ちゃんの見立てではワンマンチームということらしいので、さほど警戒する必要は無さそうだった。
ただ、そのチームのうちの三人は個人戦でも決勝トーナメントまで勝ち上がっていて、俺もそのうちの一人と当たったのだが、勝てたとはいえ、そこそこには強かったので、不気味な存在ではある。
「では、筐体の中にお入り下さい」
筐体の扉が開く。店に常設されている筐体と違って、まださほど使い込まれてはおらず、独特の金属臭が汗の匂いに混じっている。
シンクロフレームが俺に取りつく。正面に現れる、スーパーライト。コイツは個人戦での次の相手でもある。
いつもと違うのは、五人の相手が並んでいる事、俺の左右にも仲間たちが並んでいる事。
そして。
『READY?』
試合の開始前に5秒の移動時間が与えられている事だ。
未だに俺はそれに慣れていない。それでも音声が聞こえてすぐに、俺は左へと走った。
まずは降籏さんと共に左端にいるジャンヌJr.に取りついて倒す事が、俺の役目だ。
他の三人は、右へ右へと移動している。
敵は正面をそれぞれの相手に向けるようにしているものの、位置は変えていない。
『FIGHT!』
『プロテクター!』
開始直後、ジャンヌJr.の体が既に身に纏っていた白いロングコートの上から、白銀の鎧に覆われた。
対して元祖ジャンヌ・ダルクは――
『ホーリークロス!』
同様にガード必殺を張るが、グラフィックはJr.と違い、体の正面に、巨大な白い十字架が張り付くというものだった。
俺は相手のガード必殺など構わず、ショットガンを放つ。
降籏さんも、同時に斬りかかっていた。
『キャノン!』
ライトタンクの攻撃に、俺は慌てて飛び退く。
『フェアリー・ステップ!』
ジャンヌの声が聞こえる。あとは瞬殺してくれる筈なので、放っておいて良い。
俺はスーパーライトに向けてショットガンを放った。
装甲は既に現れている上に、ガードされた。だが、それで良い。
『シルフィード・ラッシュ!』
俺は、ジャンヌJrが片付くまでの時間稼ぎ。
あとは個人戦に対する練習を兼ねて相手をしながら、最後は二人で倒せば良いのだから楽勝の筈だ。
「キングス・ガード!」
残りの三体を倒す余力を残す為、俺はガード必殺を発動させた。
コイツには、団体戦の第一次予選で、一度負けている。出来る事なら、一人で片付けようと思っていた。
発動させたガード必殺のお陰で、細かな基本技ではライフを削られる事は無い。
時折飛んでくる『キャノン』をガードすれば、決して手強い相手ではない。
俺はタイミングを相手の攻撃に合わせて、ショットガンで相手のライフを削る。
相手の防御値は低い。ガード必殺で身を固めていても、カウンターのショットガンの威力を完全に殺す事は出来なかった。
こちらのガード必殺の発動時間は短い。
何としても、短時間で決着を着けてしまわなければならなかった。
その為には、あの必殺技をヒットさせる必要があった。
そう、この技を。
「正ジャック!」
相手の攻撃のタイミングに合わせて、その名を呼んだ。
……と、簡単に言ってはいるものの、そのタイミングを合わせるという作業に要する集中力は、生半可なものではない。
僅かに遅くても早くても、相手にガードされてしまう。
だが、どうやらその絶妙なタイミングを掴めていたようで、正ジャックは相手にカウンターの形でヒットしていた。
削るべき相手のライフは、あと僅か。
「キングス・ガード!」
俺は相手が立ち上がる瞬間に合わせて、再びのガード必殺を発動させようとしていた。
……だが、何かおかしい。
「……おやぁ?
止まってるんじゃないかな、コレは?」
画面の映像が動かない。
何事かと思っていると、シンクロフレームが勝手に外れ、扉が外側から開かれ、係員が顔を筐体の中へ突き出した。
「すいませーん。ちょっとトラブルがあったみたいなので、一時中断しまーす」
出れば、外でもかなりの大騒ぎになっている。係員が血相を変えて走り回り、スピーカーからのアナウンスで、必死に謝罪している様子。
およそ30分の後。
結局、俺らが使っていた5台の筐体は使用不可能と判断され、デモンストレーション用に用意されてあった筐体を利用して、個人戦のみが行われることとなった。
「全く、使えない連中ね!
仕事の方に駆り出されていたら、危うく私まで大目玉を喰らうところだったわ」
事情を聴きまわっていた美菜姉ちゃんの話によると、データの一部に破損が見られ、復旧とチェックに半日以上はかかりそうな状態なのだという。
こうして。記念すべき第10回大会の団体戦は、何とも中途半端な形で幕を閉じてしまった。