四方風神

第6話 四方風神

 真っ赤なひげを、すっかりる。
 
 髪も、顔の左半分が現れるように整える。
 
 そうして見ると、カメットは「爺さん」と呼ぶには未だ若かった。
 
 顔の右半分を隠したままにした理由は、右目が古傷でつぶれているのを見せないようにするためだった。
 
「待たせた」

 カメットは、「旅の準備をする」と云い、三人を待たせて身形みなりを整えていた。
 
 それが済むと、まずは四人でダスト学院に向かった。
 
「何故、学院に?」

 学院に行くと言い出したのは、ムーンだった。
 
 本当は、向かいたくない理由があったのだが、背に腹は代えられぬ。
 
「人に聞かれたくない理由だ」

「砂の海に行くなら、必要よね」

 スターは、何も聞かずとも分かっているらしく、「ダスト学院に行く」とムーンが言い出した時も、「当然ね」という返事だった。
 
「注意点を一つ。

 学院では、俺の事を『ノトス』と呼んで欲しい。
 
 本名を知られたくない理由があるのと――」
 
「『南風のノトス』か!」

 カメットは、知っている様子。それも、そのノトスに対して、敬意を示す態度を表し始めていた。
 
「そうとも呼ばれる。

 知っているなら、理由は必要無いな」
 
「成る程な。色々、合点がいく」

「――四方風神の、あのノトス?」

「そうだ」

 リックも、全く知らないではないらしい。
 
「じゃあ、爺さんと似たような歳だね」

「……儂も、土鉄の中では、まだ青年の領域だ」

 土鉄族は、長寿の種族であった。

「でも、孫がいるんだろ?」

「1歳にもなっていないがな!」

 ムキになるカメットと、それを揶揄からかう様なリックとのやり取りが面白かったのか、スターは笑いを堪え切れずにいた。
 
「……何がおかしい?」

「私ぃ、ペクサーなんだけど――脅すの?」

「む……。失礼した」

「あはははははは!」

 とうとう、スターは手を叩き鳴らしながら、笑い尽くした。
 
「安心して。あなたたちにも、ペクサーになってもらうから」

「スター!」

 ムーンの怒号どごうが飛ぶ。スターは首をすくめた。
 
「――成る程な。それを、人に聞かれたくなかったわけか」

「幾つか、学院に預けてある。そのうち、貴様らにしか使えそうに無い奴を貸し出す。

 そう大袈裟に大事にしなくても良いが、それなりに大事に扱い、そして――使いこなせよ」
 
「うむ」

「ねえねえ、爺さん。どういうこと?」

「おヌシは知らんで良い」

「りょーかーい!」

 ダスト学院は、PECSの操作技術を教えてくれる、世界で唯一の施設だが、普通の人間は、入る事も許されない。
 
 だが、ムーンはただ「ノトスだ」と名乗るだけで、警備兵に門の通過を許可された。
 
 今、入試を受けている者たちも、厳しい書類審査を通り抜けて、一時的に通過の許可を得られているだけでしかないというのに。
 
「……あの名を名乗れば、誰でも通れるわけではなかろうな?」

「試すと良い。後悔しても知らんがな」

「『αシステム』が無いと、死ぬもんねー」

「スター!」

 再び飛ぶ、ムーン=ノトスの怒号。
 
「いちいち怒らないでよー!」

「貴様はイチイチ、一言多い!」

 誰の案内も無く、迷宮のような学園内を迷うことなく進んで行く。
 
「ここだ」