命令

第1話 命令

 西暦2082年。人類の大半は、インターネットによるVR(ヴァーチャルリアリティ)世界に浸かりきっていた。

 人によっては、その世界がVR世界だと認識しない程。

 そんな中、高々10歳の子供が、世界の法則に気が付いてしまった。

「命令を下せば、ソレが叶ってしまう!」

 彼の名は、藤坂 卯辰。

 今のところ、VR世界に命令を下す方法と技術に気付いただけの、一児童にしか過ぎなかった。

 2072年4月10日――即ち、2072年のイースターに誕生した子供だった。

 卯辰は、直接的にお金を得るだけでは、借金になる可能性を恐れ、何らかの商品を開発して販売し、儲けようと思っていた。

 当初、卯辰が考えたのは、『自動昇天機』。快感の余り、昇天して天界へ行けると云うものだ。

 だが、これには決定的な欠陥があった。昇天する程の快感に、気絶するか、もしくは最悪の場合、命を落とす可能性があった。

 これによって、人は快感によっても、極めれば脳が焼き切れて死んでしまうことが実証された。

 だが、卯辰の求めるのは、人を殺す機械ではない。

 そもそもが、命を落とさない程度に加減したところで、ソレに依存性があれば、ほぼ麻薬のようなものだ。

 法律に反するのは、卯辰の望むところではない。

 ところが、そんな機械にも極少ない需要があった。――自殺志願者にである。

 にも拘わらず、自殺志望者が快感の余り、昇天して気絶してしまうところまではあるとしても、死亡してしまうところまでは中々届かなかった。

 人によっては、脳に大きな障がいが残る。それが故に、その装置は使用を法律で禁じられてしまった。

 そうなったら、次に卯辰が目指したのは、MMORPGによる、本物の魔法の行使だった。

 プロeスポーツプレイヤーを目指したのだ。

 そうすると、飛んできたのは山ほどの罵声だった。

 曰く、『ルール違反』、『チート』、『魔王』、等々……。

 しかし、一本の感想が、卯辰を救った。

『凄い!やり方を教えて下さい!』

 だがここで、卯辰は教える事を躊躇った。

「凄い罵声が飛んでくると思うけど、それでも?」

『はい!』

「何故?」

『何故って……。そりゃ、凄いからです!』

「それなりの勉強は必要だよ?」

『その位、覚悟の上です!』

「じゃあ、まずプログラミング言語を勉強してみて。

 それで、やり方が分かる筈だから」

『はい!ありがとうございます!』

 そう、卯辰が行っていることは、プログラミング言語の『命令』だったのだ。

 電脳世界で命令を下す。それは即ち、その命令が実行される。

 卯辰は、ただ単に、その事を発見しただけだったのだ。