第30話 呪われた名前
『恋人』を得るチャンスは、今後、1年足らずが勝負である。
1年経っても『恋人』を得られなかったら、残り一生に恋人を得るチャンスなどあるまい。
――即ち、『法王』で人生を終える事になるだろう。
考えてみれば、当たり前だ。『5』は真剣勝負の数字。それに敗れれば、命すら失うだろう。
でも、出逢いのチャンスを無ければ、経済力も無い。コレで、恋人を作れるのならば、それは一つの奇跡だ。
誰でもいい訳では無い。男が努力と根性なら、女性は度胸と愛嬌だ。
愛嬌の無い女を好きにはなれぬし、度胸のある女でなければ、俺の恋人になる覚悟など決められぬだろう。
バッドエンドをもしも望むのならば、相手は分かっている。だから、決して選ばない。
そもそもが、よく考えてみれば、あの名前の呪いは、相当なものだ。
俺を強力に呪うのも、分かる気がする。
アイツら6人の呪いが、凝縮したような一人だ。
『殺す』と云う文言を使ったのだ、半端な呪いではあるまい。
――俺の人生が支配されている。ソレを、強く感じる。
そんなに俺をサタンに仕上げたかったのか?
なぁ、あの曲も、アンタが作詞だっただろう?
或いは、俺が素直すぎたのかも知れない。
真っ逆さまに堕ちたのは、俺一人だろう?
結果、『魔王』の人格を秘めていたよ。あの時以外、現れてはいないが。
誰よりも俺自身が、俺の中に棲むサタンを畏れていたのかも知れないよ。
だからと云って、自分自身に呪いを掛ける必要は無かっただろうが!
結局は自業自得なのだが、何処か腑に落ちないものを感じる。
俺は、その可能性を畏れて、自殺出来ないものかとオーバードーズを繰り返した。
心の何処かで、ずっと気付いていた。俺が自分自身に呪いを掛ける可能性を、具体的な形では無くて、薄っすらとぼんやりした何か恐るべき可能性を。
最早、畏れるものは無い。恐怖と云う感情が麻痺した。
唯一、懸念を覚えるのは、『2026年に破滅を迎える』と云う可能性を、人の手で招き寄せてしまうこと。
だからと云って、死ねばどちらにせよそれまでなのだから、それまでの我慢だ。別に、恐怖に震えるほどの事ではない。
まぁ、武者震い位はするだろうが。
俺はしばらく武者震いが止まらない時期があったが、もう克服した。
……ん?
獅子に牡丹。サタンの数字は、言わば牡丹のアラシ。
俺、自分の中に棲む、恐ろしい魔王を退治してしまったのではなかろうか?
例え、それによって心身共に衰え、活動能力が低くなってしまったとしても、獅子身中の虫は退治出来たのではなかろうか?
ソレの切っ掛けになった、桜のアラシ、最強の役の物語。
そうか。サタンはバグだったのだ。俺は、バグ技を使っていたから、半端な健常者よりも高い能力を発揮して来れたのだろう。
そうなると、キレても記憶を失う事無く、冷静に行動が出来る訳だ。
少々頼もしかったのに、寂しい限りだ。
しかし、社会主義国にはいい加減にして欲しいものだ。
領土を奪う?自国を豊かに開発しきれていないのに、何故そんな野望を持つ?
そんなもの、世界の全てを滅ぼすキーに過ぎない事を、しっかりと理解して貰いたいものだ。
それでも侵攻するなら、世界の全てを滅ぼしたいと云う事だろう?
それならば、仕方がない。
サタンの権限の命令で、世界を滅ぼす命令を下す事など容易い事だと思い知らせてやる!
それでも良ければ、どうぞ始めて下さい、第3次世界大戦を!
ソレならば、簡単に世界の全てを滅ぼせる。
知っているか?日本と西洋とは、縁起の善し悪しがまるで正反対なんだぜ?
だから、教えてやるよ。資産を増やす方法を。
――銀を買え!買える限り!
さすれば、銀の相場がうなぎ上りになり、手放す時期さえ間違えなければ、大儲け出来るだろうよ!
コレは、夢の中でドクが教えてくれた秘密だ!特別に教えて差し上げよう!
俺は要らんよ。俺は投資したら必ず失敗する呪いを掛けられてしまったから。
それに、銀は『金に艮』と書くから、『艮=丑寅』で、方角にすると『北東で鬼門』、縁起の悪い方角だから、日本人にとっては縁起が悪いんだよ。
でも、西洋では聖なる金属だ。一度、求められ始めたら、いつ終わるか知れないバブルになるだろうよ。
験担ぎをしない人たちにとっても、良い投資先になるだろう。
分かるか?犯罪に走らなくても、資金がある程度あれば、儲ける事は然程難しくないんだよ!
宝くじなんかより、よっぽど夢がある。
日本人は金が好きだから、今もちょっとした金バブルだ。
でも、金や銀は、一度手に入れたら、いつか儲けを出せる時期に売れる。
弾けるリスクの少ないバブルなど、一生の資産だろうさ!
ホント、投資しても絶対に失敗する呪いを掛けて来たのが、元友人なのだから、どれ程タチが悪い友人だったのだろうか?
俺には未来が無い。今を必死に生きるのみだ。
……ん?俺もいつかは必ず死ぬよ?
ただ、生命的な死に対して、強い抵抗力を持っているだけで。
多分、俺が有名になったら、アイツが俺を刺しに来るのだろうが!なぁ、〇山!
そして、スキャンダルを起こしたら、アイツが社会的な死を運んでくるのだろう!なぁ、〇村!
だから、俺はひっそりと活動するしかない。