吸血

第40話 吸血

「……!詩織!」

 狼牙は慌てて詩織に駆け寄る。
 
 脈と呼吸を確認すると、微弱ではあるが、どちらもまだある。
 
 だが、救急車が間に合うとは思えない。
 
 それでも狼牙は、詩織の血を吸う事に、抵抗があった。
 
「……苦しいかい、詩織」

 傷口に手をやり、その手についた血を舐めた。今までに味わった血の中でも、最高の味がした。
 
 その血が切っ掛けになったのか、抜いたばかりの牙が、目に見える速さで伸びていく。やがて、立派な牙になった。
 
「今、楽にしてあげるよ。

 でも……ごめん、詩織」
 
 一度、唇で詩織の首筋に触れ、躊躇い、そして覚悟を決めると噛み付いた。
 
 牙が、詩織の首筋に食い込んだ。
 
 流れる血。それよりも多くの血を、狼牙は吸っていた。そして、狼牙の唾液が詩織の血管に流れ、感染する。
 
「……う……ん……」

「……詩織!」

 詩織が意識を取り戻した気配を見せると、狼牙は血を吸うのを止め、詩織の瞼を見つめ、それが開くのを待った。
 
 ゆっくりと、開いていく瞼。
 
「詩織!」

「……狼……牙……?」

「良かった!助かったのか!」

 嬉しさから、狼牙は詩織を抱きしめた。
 
 詩織は、まだ意識がはっきりしていないのか、声にならない声を上げながら、やがて、狼牙の首に口づけした。そして――牙を突き立てた!
 
「クッ……!」

 血を吸われる苦痛に耐える狼牙。だが、その口から出たセリフは――
 
「吸ってくれ。思う存分、吸ってくれ!それで、君が助かるのなら!」

 しばらく、詩織は狼牙の血を吸っていた。だが急に、詩織は狼牙の体を突き放した。
 
「……狼……牙……?

 私、一体何を……」
 
「いいんだ、詩織。全てを話すよ。

 だから、結婚しよう」
 
「……狼牙?

 今、何て……。
 
 ……本当なの?私と、結婚しようって言ってくれたの?」
 
「ああ。君を……ヴァンパイアにした責任を取ってね」

「……やっぱり、そうだったんだ。

 さっき、私、狼牙の血を吸っていたのね。
 
 ……あ!」
 
 口元に手をやった詩織が、ようやく気付いた。
 
「……これ、牙?」

「ああ、そうだ。それが、君がヴァンパイアになった証拠だ。

 ……ごめん。君の命を救う方法を、僕はこれ以外に知らなかった。
 
 許してくれ。今まで誤魔化していたことを」
 
「……私、薄々気付いていたよ?冗談で、何度も言っていたよね?それが冗談じゃない、って。

 狼牙、からかおうって目、してなかったもん。
 
 ありがとう、狼牙。私、こんな形でも狼牙と結婚出来て、嬉しいよ」
 
「良かった……!」

 抱き合う二人のやり取りを、ドラキュラは笑って見ていた。
 
「フッフッフ。一件、落着か。これで、ヴァンパイアの血が絶えずに済む」