第31話 危うい綱渡り
『穢れ』の始末に奔走して、隼那と恭次は肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。
こんな事して、本当に意味はあるんだろうな?」
「意味があると、信じないと意味が無いわ。
討ち漏らしが一件でもあったら、『穢れ』はそこから広がるかも知れない。
だから、討ち漏らしが無いよう、捜索範囲を広めるわよ!」
「まだ広めるのかよぉ~!」
その言葉を聞いて、隼那が閃いた。
「そうね。広めるのは良くないかも知れないわね。
場所を絞るわよ。
海外まで出て行った奴は、流石に追えないわ。
まずは北海道に広まった『穢れ』の全てを始末するわよ!
ソレで効果が無かったら、この行動は無駄になるかも知れない。
――いいえ、無駄にならないと信じ尽くせないと意味が無いわ!」
「俺ァ、疑問に思っちまうタチなんだがよ」
その言葉に、隼那がキッと恭次を睨み付けた。
「恭次のその考え方が問題なのよ?判っているの?!」
「判っているつもりだ。
ただ、盲目的に信じるのは、宗教と同じで『狂気』だぜ?
そもそも、あの阿呆も『サタン』で『ルシファー』だったじゃねぇか。
――違うな。七大魔王の全て、七重にNo.1なのかもな!」
「いいえ。違うわ。
アイツは、独自に新しい八柱目の魔王を定めた。八重にNO.1なのよ!」
「でも、現に二つは受け止め損なっているじゃねぇか」
「恐らく、先に確保されたのでしょうね。
恐ろしい事に、一方はバッドエンドの運命よ?
ならば選ばれる事はあり得ないのに、喧嘩を売っておいて、謝罪も無しに、赦されると思ったのかしら?
無視しようとしたら殺気を送って来る。
ならば、『塩』でも送り返してやりたいけど、名前故に耐性がある可能性が否定し切れないのよねぇ」
「よし!話はここいらで止めといて、俺たちは作業を急ごうぜ!」
「――そうね。言っても、誰も信じようとはしないから、どうせあの阿呆に全責任を負わせて、公開処刑にでもするのでしょうね。
正直、そんな未来が来るなら、私たちも努力を放棄してしまいたいけれど、戦争になるのだとしたら『BRICS』の五ヵ国が相手になりそうなのは、ちょっと脅威よね」
「馬鹿!そんなことを『常世』で発言したら、現実化しちまうじゃねぇか!」
「はっきりと言ってしまえば、地球は『世界統一国家』一ヵ国で成り立つのを希望しているように思えて、抵抗するのも馬鹿らしいわ。
その為に、どれだけの血が流れ、どれだけの死者が出ようと成し遂げるつもりの国が一ヵ国でもあったら、『第一次にして最終世界核大戦』になると思うから、どうでもいいわ。
何しろ、地球の意思ですもの。人間が逆らえる事では無いわ。
尤も、『覚醒』に至った人たちが世界中で戦争と軍事力の放棄を訴えたら、少しは変わるかも知れないけれどね。
さあ、『穢れ』を焼き払うわよ!休憩はこれまで!」
二人は、本当に危ない橋を渡っている自覚もありながら、その綱渡りをあと60年の平和へと導くべく、続ける覚悟でいるのだった。