第10話 協力体制
「そいつらと連絡は取れるのか?」
「連絡先は確保しているけれど。
ねぇ。話だけでも、聞きに来てくれないかなぁ?」
「治験に協力するのが、そんなに嫌か?」
「……言われてみれば、確かに感情的になっていただけかも」
先程の「ありがとう」で、気勢を失ったのは俺だけでは無いようだ。これなら、彼女だけなら話になる。
「百歩譲って、治験には協力しないで構わない。だが、俺に協力しろ。
そうすることを、奴らに伝えろ。それで解決しないのならば、お前だけになら協力してもいい。
だが、決してそいつらに協力するわけじゃない。
妥協案として、不服か?」
「……服薬しなくていいの?」
「いい。仕方あるまい」
「……分かった、そうする」
「会いに行くなよ?
失礼と思っても、スマホで連絡しろ。
何なら、この場で通達してもいいし、話がまとまらなかったら俺に代わってもいい。
最初に、下品な冗談と言ったな?冗談で済まさない奴がこの世に存在する事を理解しろ。
俺に会いに来るだけでも、危険であった事を、恐らく理解していないだろう?」
俺が本当にモラルの無い人間なら、部屋に入れてすぐに襲っていた可能性はある。
「私、合気道2段。一対一なら、何とかする自信はあったわ」
「……そうか」
「勿論、彼等が集まっている可能性位、考えているわ。
嫌な気分はしたもの。彼等と話する時。だから、連絡先を確保したの」
意外に、冷静だ。
感情的になっているのだから、少なからず冷静な判断を欠いているのではと心配していたのだが。……余計なお世話だった。
「でも、あなたの申し出には甘えたいと思います。
今、この場で報告するから」
この場で電話するのはいいのだが、声を潜める事も無く、恐らく俺の事を指してだろう、「アイツに協力することにした」などと、俺を「アイツ」扱いだし、「アイツの言っている事はまともだし」とか、本人がこの場に居る事を、少しは考えた発言をして欲しい物だ。そして、割とあっさり、電話は終わった。俺に代わる事も無かった。
「拍子抜けするわ」
「説得出来たのか?」
「治験に協力しない事を強調したら、それならいい、って。
ねぇ。あなたの連絡先も教えてよ」
「……構わんが」
役得だ。こんな形で、連絡手段を得られるとは思わなかった。
スマホを弄ってやり取りし、連絡先を交換すると、「じゃあ」と彼女は帰ろうとした。
「また……お茶しに来ていい?」
「ああ。今度はもうちょい良いブレンドを見付けておく。
その代わり、あのゲームのコツを教えろよな」
「……負けてあげようか?」
「本気のお前に勝てないと、意味が無い。手を抜くことは許さん!俺への侮辱だ」
「夜通しでも付き合うわ。
……ふふ。あなたと一夜を共にした、って人に言ったら、誤解されそうね」
少し前から、疑問に思っていた事が、ほぼ確信に変わった。
「――お前、俺と付き合ってもいいと思っているだろう」
「思い始めている、だけよ。まだ、いいとは思っていないわ。図に乗らないで。
――私、女王よ?」
「夜通しでも付き合うと言ったな?今日でも構わないのか?」
「……性急ね。別にいいけど、襲うつもりなら覚悟してよね。手加減しないから」
「俺が襲う様な男に見えるか?」