第49話 動画映写機
そして、最初の収穫の日がやって来た。
と云う事は、同時に、最初の税収の日がやって来た事にも繋がる。
それ迄、デッドリッグ達が静観していた訳も無い。
謙遜しがちな町の建築職人達を褒め称え、立派な劇場の建築を依頼した。──勿論、依頼する時点で『立派な』と云う枕詞は述べていないが。
結果、出来上がった劇場にて、非常に安価に代金を取り、アニメ映画の上映会が開かれた。
安価と言えど、侮るなかれ。多くの者が見られるようにした結果、他の地方からも観覧に来る旅人もおり、人気が人気を呼んで、大繁盛した。
ソコに、ローズ指導のたこ焼き屋が開設された。勿論、小麦粉は小麦又は小麦粉を輸入して、タコは漁でそこそこ取れたので、費用が掛かる為、安価での提供は出来なかった。
但し、お子様に限り、一人一個限りの試食が許された。
──金持ちのお子様と云うのは、我儘なものだ。親に、『買って~!!』と云う強い要望が出され、一部の金持ちにたこ焼きは流行った。既に、学園祭に於ける実績があったのも大きい。
但し、お子様に提供されたたこ焼きは、冷め始めたものを用いた。熱過ぎる焼き立てのたこ焼きと云うのは、大人でも口の中を火傷しそうな程、危険なものだ。
故に、焼き立てを提供する場合は、注意を促すよう、ローズからの指示が入った。
それは兎も角、収穫の日だ。
甜菜は、3割を税として徴収した上、全量を買い取ると云う暴挙に出た。
甜菜農家としては、何故甜菜に限って?との疑問を持つが、暫しの時を置いてから、町中に砂糖が出回った事で、何となく察するに至る。
まぁ、収穫より前に、甜菜を砂糖に加工する職人の確保と育成が為されていたのだが、その際にも、『砂糖を作る』とは説明されていなかった。
兎も角、外資が入って来る切っ掛けは出来た。アニメ映画の上映、たこ焼きの販売を含めて。
「林檎とトマトが欲しいところですわね、ソースを作る為には」
ローズがそう言い出すと、デッドリッグは部下を動かして林檎とトマトの輸入に動いた。
卵と鶏肉の確保の為に、鶏の養殖なんかも進んでいる。
食べられる魔物肉が入手出来れば、その猟をした者に懸賞金も検討されていたが、そう上手く、魔物肉が手に入る訳も無かった。
そもそもが、魔物が少ないが故に存在していられた、町なのである。村で無かったのは幸いだった。
公爵領になった事で、デッドリッグにはこの町を発展させる義務がある。その必要経費の、税である。
デッドリッグは、自分たちの収入にも税を課した。『支払わないと、支払いたくない者に支払いを義務付ける大義名分が立たなくなる』と云う理由でである。
例えば、町長がそうである。町長は、税を課した収入物を、一度全部没収した上で、『町長』として町を率いる義務に対する対価を支払った。それが、町長の収入の、表での全てである。
裏の収入に関して言えば、取り調べだけ密かに行なっておいて、不要になったらその証拠を突き付けて首を切る。
既にこの町は、ケン公爵領なのだ。不都合な町長が居るのなら、切り捨てる必要がある。
ただ、町長は爵位を持っている訳でも無く、従順で、真面目だった。しばらくは、切り捨てる必要は無さそうだった。
「何か、祭りの一つでも開催したいわね」
ローズのその意見で、何らかの祭りを開くべく、動き始めた。
簡単なところでは、収穫祭と云うのがベタだが良いだろうと云う意見が出ていた。
又、デッドリッグは個人的に、動画の撮影技術の開発に動いていた。
問題は、動画──正確には瞬間的に連続撮影された秒間60枚×2時間程度の静止画──の画像データと音声データの保存媒体である。
デッドリッグはソレを、ミスリル銀に保存する事を試みた。
結果的には、成功。但し、デッドリッグは命令文は理解していながら、ミスリル銀がどう云う原理で画像データ・音声データを保存できているのかを、理解出来ていなかった。
デッドリッグですら解らないのだから、他の誰にも理解は出来なかった。
ただ、画像データ・音声データの保存用ミスリル銀の為に、映写機のサイズは倍以上にも大きくなった。まぁ、元が直径10cm程度であったこともあって、大した大きさじゃない。
「え?動画が撮影出来る?!」
動画映写機の完成をローズに報告すると、そんな反応が返って来た。
「それは、動画の編集も出来ますの?!」
「ああ、簡単な編集は可能だ」
「素晴らしいですわ!──それで、最近、忙しそうに耽っていらっしゃったの?」
「まぁ、それが最大の理由ではあるな」
一応、領地の運営にも努力していたことは、理解して貰いたいデッドリッグ。
だが、ローズにとってはそんな事はどうでも良いらしかった。
「コレで、アニメでは無い映画が撮影出来ますわ!」
「──脚本は?」
「うっ……!」
痛いところを突かれたらしいローズ。
「で、でも、アニメ映画の題材を流用して実写版にすれば、今は絵が粗い分、ナチュラルに観れると思いませんか?」
「そうなると、『役者』と云う職業を作り出すところから始めなければ──否」
俺は少し思案して言い換える。
「『舞台俳優』を雇えば良いか」
「閣下……」
ローズが首を横に振った。
「この町に『舞台俳優』なんて居ませんわ」
「皇都で探すか!」
「皇都の『舞台俳優』なんて、こんな田舎の町に協力を願うなど、幾らかかるか想像してみて下さいまし」
「うーん……」
結果、デッドリッグが導き出した答えが。
「この町で、俳優・女優の募集を張り紙で町中に募ろう!」
「……そう都合よく見つかるとは思えませんけれどね……」
「大丈夫だ、ローズ」
デッドリッグが自信満々にこう言う。
「この世界は、『美しい調和』で出来ている!」
「……ソレを乱そうとする者の多さが、大問題なのですけれどね……」
ローズが、はぁ……と息を吐くのだった。