第19話 力が欲しいのか
「ここからは、私たちヴァルキリー部隊が相手よ!」
加勢は、予想とは反して恭次たちへのものだった。
恭次たち二人にはかすかに見覚えのある女性たちが、光に包まれ空に浮いていた。
その6人はサイコワイヤーによって繋がれ、そして一人からはどこか遠くへと伸びるサイコワイヤーが繋がっている。
どうやら、敵の援軍は既に彼女たちの手で排除されていたらしい。
「光の槍、装備!」
女性たちが両手を胸の前に構えると、そこから光が伸びて長い棒状に固められる。
「邪魔をするな、貴様ら!」
苛立った男が、光の四角を飛ばす目標を彼女たちへと変更した。光の槍を右手に抱えた女たちは、その四角に向かって同時に左手を突き出した。
『大いなる盾!』
その掛け声は、一人が放ったように聞こえる程に美しいハーモニーを描く。
彼女たちからは光が放たれ、それは螺旋を描いて広がると、巨大な盾と化す。光の四角はそれに溶け込むようにして消え失せた。
「OH!MY GOD!」
頭を抱えて叫んだ男の言葉は、日本語には変換されなかった。そのショックから立ち直る時間など、女性たちは与えない。
「突撃ぃー!」
鬨の声を上げて、一斉に襲い掛かる女性たちの姿を見て、ようやく男は我に返った。
「スクゥエア!」
巨大な四角が、六本の矛先を受け止める。
男の額を一筋の汗が伝う。
女性たちは必死の形相で槍を突き出すが、その強力な壁は突き破れなかった。
一人か二人が回り込めば、それで簡単に済む話のように思えるが、巨大な四角は少なくとも10メートル四方はある。
「武装変更、ガラスの剣!」
女たちはその掛け声で、一斉に手を空に向けて突き出す。
その手に握られていた槍は半分ほどの長さにまで縮まると、目に見える光を失った。
振り下ろされたソレは、易々と光の四角を切り裂くが、その時にはそこに男の身体は無かった。
鈍い音を立てて、男の身体が地面に落ちた。
その目は白目を剥いている。
死んではいないようだが、その身体は何度か痙攣を起こしてビクッと動く。
「――どうしたの、突然?」
女性たちは顔を見合わせる。目には見えない剣を手にしたまま、男を取り囲むように地面へと降り立ち、止めを刺すべきなのか、相談を始めた。
「パワー切れだな、コリャ」
近寄った恭次には、一目でその原因が分かった。
蒼白な顔、荒い呼吸、大量の汗。
隼那の時と同じだ。念のために、後頭部を探ってサイコソフトを全て抜き取る。
「で、お前らは何をしているんだ?」
難癖をつけるが如く、恭次は云った。
「ひっどーい、緋神さーん」
「せっかく助けに来たのに、その言い方は無いと思うわ」
六人のクルセイダーは女性陣から、非難の言葉が矢のように飛んで来る。
たまらず恭次は耳を塞ぐべく指を突き指すが、その指を強引に引っこ抜かれると、より一層やかましい文句が襲ってきた。
「やかましい!今はそんなことを言ってる場合じゃないだろ!
ココは戦場だ!お前らの居る場所じゃねえ!」
ビシッと指を突き付けて言い放つと、一瞬だけ女性たちは気圧されて黙った。
しかし。
「……負けそうだったクセに」
一人がポツリと、そう呟くまでの、短い間だけだった。
「そうよ、私たちの方が強いのよ!」
その一言が、恭次の胸に突き刺さる。
そして恭次が怯んだのを切っ掛けにして、6人は、言葉の弾丸を、尽きるまでマシンガンのようにぶつけ始めた。
普段に溜め込んだ不満を、この機会にとばかりに吐き出す様に。
恭次は、耳を塞ぐ気力すらも刈られた。怒鳴り返すなどもってのほかだ。
元々、必要性に駆られて強気な態度を取っていたため、一度それが崩されると、驚く程脆かった。
殺された男たちの責任を追及されると、もう、顔を上げていることすらも出来ない。
次第に女性たちの言葉も弾切れがちになってきた。
誰ともなく口を閉ざし、悔しそうに拳を握り締める恭次を、冷ややかな眼差しで見つめた。
「行きましょう。
私たちには、戦わなければならない相手がいるんですから」
一人、二人と空に浮かぶと、もう恭次には目もくれずに、敵を求めて飛び去った。
恭次は、益々強く、拳を握り締める。
右手に小さな欠片の感触を覚えて、目の前で掌を開いてそれを見つめた。
『力が欲しいのか?』
恭次は、自分自身に問い掛ける心の声を、はっきりと耳にした気がした。