創始者ゼフィア

第45話 創始者ゼフィア

「思い出した!」

 大声を上げたのは、先程から何かつぶやきながら考え込んでいたアイオロス。
 
「ゼフィアって言えば、僕を上回る数少ないデビルの一人じゃないか!

 パンデモニウムの創始者!
 
 最近はさっぱり名前を聞かなくなったけど、師匠の事だったのか!
 
 これでようやく納得出来た!」
 
「ルシファーが、人間と協調するようになって来たからな。

 狩る必要が、然程さほど要らなくなった。
 
 奴も、やり過ぎたと反省はしているらしい」
 
「二人共、何を悠長に話しているのよ!

 殺気立ったエンジェルが、数十体、ココを取り囲んでいるのよ!何とかしなくちゃ!」
 
「師匠が落ち着いている内は大丈夫。

 原因は、何でしょう?」
 
「水月だ。

 奴め、気付きおった。
 
 それだけの大きさのアルフェリオンは、少ないからな。
 
 フライト・アーマーの方は特殊加工しているんだが、水月に余計な加工は加えたくなかった。
 
 だから、気配を消すよう、封じておいたのだが――」
 
「いや。いつかは気付かれる。

 今は場所が悪い。テレポートしよう」
 
 気付けば、六人が屋外、それも森の中に居た。
 
「植物は、アルフェリオンの気配を紛らわしてくれる。

 今暫いましばし、さかずきを傾けよう」
 
 そう言って、ウォーディンはウィスキーをストレートで一口。そしてナッツを口に運んだ。
 
「――でも、どうして『ゼフィア』なんて名前を?」

「ルシファーに気付かれぬため。私は、奴を追う為、旅立った。

 お前が入手出来るよう、細かなアルフェリオン製品は幾つかばら撒いておいたが、気付いたか?」
 
「弓を一つ。ココから、千キロほど北の街のパンデモニウムで。

 運が良いのか悪いのか、師匠とは入れ違いだったそうです。
 
 クィーリー、見せてやってくれ」
 
 クィーリーが取り出した弓を一瞥いちべつ。特に大した反応は無い。
 
「並のエンジェル相手には通用するが、ルシファーには通用しない。

 それなら、彼女の魔法の方がよっぽど役に立つ。
 
 これだけの仲間を加えたのだ。必要の無い買い物をしたな。……高かっただろう」
 
「いえ、それほどでは。

 ――そうですか。あの街に行くことがあったら、引き取って貰おう。
 
 それでも良いかな、クィーリー?」
 
「文句なんて、ある筈がありません」

 素直で可愛い。なんて、アイオロスは思った。
 
「今回は、奴も動く。

 印を結ぶ手を空けておくのに、その弓はしまっておけ」
 
「はい」

「ここまで奴が来るのには、未だ時間がある。

 私は少々、久しぶりに飲ませて貰うよ。
 
 付き合わないか、イリス?」
 
「私は結構」

「なら、アイオロス。お前も呑め」

「――酔ったまま、エンジェルと戦えと?」

「弱いのか?」

「――強くは無いですね」

「一人で呑む事になるのか。つまらん」

「俺が付き合うよ」

 トールが、一升瓶を抱えて近寄った。
 
「アイオロスさん。アンタの祝勝会なのに、呑まねぇ、ってかい。

 折角、師匠が誘ってくれているんだろう?」
 
「場合が場合でしょう!

 フラッドさん、この人、止めて下さいよ。
 
 ただでさえ足を引っ張っているのに、酔われて『狙い間違えた』なんて言われたら、コチラとしてはたまったものじゃないですよ!
 
 ……フラッドさん?」
 
「――えっ?何?何の用?」

 上の空で立っていたらしいフラッドが、アイオロスに二度呼ばれてようやく我に返ったようだ。
 
「考え事でもしていたんですか?」