第3話 前世の記憶
──Side:デッドリッグ
「よく考えたら、俺の方から出向く必要は無いんだよなぁ……」
俺は4人を心胆寒からしめる発言をした。
「……私達から出向きなさい、って事かしら?」
ローズの部屋の位置を考えれば、当然行き着く結論なのだが。
「兄上の部屋は、2階の1号室だろう?
上からの音は気になっても、下からの音は然程気にならないような気がするんだけど……」
「確かに……」
だが、それだけじゃない。
「それに、今のこの状況が、既に俺の立場を悪くしているんだよ」
周囲を見回して、バルテマーを探す。──居た。興味無さげに振る舞ってはいたが。うわぁ、一番の上座に堂々と座るかい。
そして、バルテマーの容姿は、俺と同じ遺伝子が流れている証のように、金髪碧眼の美貌を持っている。
「何で俺がリスクを冒さなくちゃいけないのか。その辺もご意見頂きたいものだねぇ」
「「「「う……」」」」
4人は近寄って密談し、漏れ聞こえる限りでは、順番について相談しているらしかった。
「せいぜい、3日に1回位にして下さいよ?」
そう言って、俺は食事を進め、終えると席を外す。
そして、食器等をトレーごと下げ、バルテマーの下へ向かった。
「兄上、ちょっとよろしいでしょうか?」
お声がけした俺が、兄上の機嫌を損ねたようだ。
「……何故、お前の方から俺に声を掛けて来る?」
こりゃ、兄上、情報戦でローズに負けてるな?戦争だったら大変だったぞ?
「兄上の、レディ達に対する態度が気になりまして」
やや曖昧さを含みながらも、はっきりと意思を問う。
「気になりました、ったって、何故か向こうから避けられているんだ。
まぁそもそも、あられもない姿を一通り見てしまったから、既に余り興味も無いのだが」
そうは言っても、若い肉体。迸るものがあるだろうに。
「……兄上?この世界の記憶が有られるのですか?」
見抜かれるのを前提で、はっきりと問い質す。バルテマーは、食事の手を止めた。
「ああ、と云う事は、お前もか、デッドリッグ。
確かに、『ヘブンスガール・コレクション』の一通り全部の記憶はあるな。
ただ、追加コンテンツに関しては、未発売のまま、コチラに来てしまったが」
だとすると、情報量では俺と大差無い位……か。
「でしたら、その追加コンテンツ・キャラ以外には、ほぼ興味が無いのですか?」
バルテマーは深いため息を吐く。
「そもそも向こうも興味無さげだったし、俺もお前みたいな悪役と言われながらもヒロインの救済キャラになりたかったわ!」
あー……お気の毒様、と心の中で詫びておく。
「──では、俺達には干渉するつもりは無いのですか?」
かなり切り込んだ質問をしたつもりだ。今は、その位の覚悟をしなければならない。
「『デッドリッグによる7人全員救済エンド』が、一番全員が幸せだったしなぁ。
ああ、公開処刑もされないように対策を打っておく。
だから、……救済忘れが無いよう、十二分に気を付けてくれよ」
ああ、やはり、兄上は主人公らしく、キチンと優しい気持ちを持っているじゃないか。なのに何故、全員で見捨てた!特にローズ!
「……判りました」
7人に関しては、救済……と云う名の、婚前交渉。コレが、絶対条件となった。
4人は、順番さえ決まれば問題ない。
あとは、同学年の2人と、来年入学してくる1人。
そして、追加コンテンツ・キャラに関しては、関与してはならない。
シルエットだけしか知らないが、未だそのシルエットに一致するキャラには接していない。
恐らくは、来年入学してくる筈だ。
しかし、バルテマーの前世、全キャラ未攻略で全員デッドリッグによる救済と云うルートまで検証済みとは……。
ならば、追加コンテンツ・キャラに対しては、絶対にバルテマーに攻略させるしか無い。
その場合、単独溺愛コースになってしまうから、最終的にバルテマーの為のそう云う為のオモチャみたいに壊れてしまう可能性が大だ。
だが、断じて邪魔してはならない。可哀想だが、バルテマーはそれだけを楽しみに、今のところ確定で4人か、に手を出さなかったのだから。
……まぁ、ヒロイン7人全員に前世の記憶があるのならば、バルテマーを求める事は無いだろうが。
とりあえず、今晩の来襲には備えておかなければなるまいか。
でも、ゲーム内でこんなシーンは無いんだよなぁ……。
記憶があったが故に、コース変更と相成ったか。
「はぁ……。シナリオ通りだった方が楽だったかもなぁ……」
──否、コレが、追加コンテンツ・キャラの攻略ルートのシナリオ通りなのかも知れないと、俺は密かに思った。