第15話 体捌き
「で、アイオロスさん。そこの研究所で、収穫はあったのかい?」
暇を持て余したのか、トールがアイオロスに話し掛けた。
「コレが」
コートに隠した鞘から、ガラスの刀を少し抜いて、透明な刀身を見せたアイオロス。
「――!ゲホッ。
アルフェリオン!」
むせたフラッドが、その名を呼んだ。店中の注目が、そこに集まった。
アルフェリオンは、魔法の発動体であり、非常に貴重な金属。常に強力な魔力を帯びていると言われている。
ついでに魔法の無効化能力も持っている為、刀剣にすれば、エンジェルが魔法でバリア的なものを張っても、楽々と切り裂く能力を得る。
師匠に聞かされていたその知識を思い出したアイオロスは、拳銃が無くても、一対一ならエンジェルと戦って勝てる自信ぐらいはあっても良い筈なのに、本人は拳銃が無いと、不安で仕方が無い。
「詳しくは、後で話しますよ。
おっ!メインディッシュはハンバーグか。何年振りだろう……」
「――トール。お肉はあなたにあげるわ」
「――何故?」
ハンバーグと云うメニューに喜んでいたアイオロスは、フラッドのセリフに驚いた。
「私、お肉はどうしても食べられない質なものですから……。
お魚は、辛うじて食べられるのですけど。
基本的には、ベジタリアンなんです。
あ、トール。サラダは余るようでしたら、いただけないかしら?」
「全部、やる!」
対照的に、トールは肉食のようであった。ハンバーグ一つを、二口で食べ終えていた。
なものだから、ほんの暫しの後に届いたライスを見て、「遅ェよ」と、店員に不条理な文句をつけていた。
それでも、食べる事には食べている。
「……さて。行きましょうか。
場所は私の部屋でよろしいですか?」
「ええ。
――おっと」
ベチャッ。
アイオロスは自分が座っていた椅子に足を取られ、転んでしまった。
それも、ロクに受け身も取れずに、顔面からモロに。
「……あなた、本当にあのアイオロスさんですか?
今の体捌きを見ると、とてもそうは思えないんですけど……」
「……後で、手合わせでもしますよ。僕の強さの証明の為に。
アテテテテ……」
「大丈夫ですか、アイオロス様?」
「大丈夫。行こう」
アイオロスがみっともなく転んだことに、客も店員も何の反応も見せなかったが、二階に上がった途端、盛大な笑い声が下から聞こえて来たのは余談である。
階段を上るまでに見えていた彼等の肩が震えていたような気がしたのは、アイオロスの勘違いではなかったようだった。