第21話 代金
「よう、結城。相変わらずだな」
「そちらこそ。
元気そうで、何よりだよ」
そこで狼牙は、いつも通りに室内を見回した。
「安心しろよ、結城。お前の予約が入っていたし、さっき患者が人払いを頼んできたから、お前の診察は終わるまで看護師は来ないことになっている。
さて。用件は、血液の購入だけかな?」
「ああ。……それと、差し障りが無ければ、さっきの患者についても教えて欲しい」
「ああ、そりゃ駄目だ。守秘義務がある。他の患者のことについては話せない」
「そうか。……まぁいい。
いつも通りで頼む」
雀朱は、苦笑いをしてこう言った。
「残念だが、そうはいかなくなった。
血液の需要と供給のバランスが、以前よりも更に変わってしまった。
いつもの値段では売れない。……まあ、量はいつも通りに用意してあるがな。金額は……2倍だ」
「さっきの患者のせいだな?」
「それには答えられない。
とにかく、2倍の金額で買い取って貰うのでもなければ、売れない。そう思ってくれ」
「……少々、財布の中身と相談してみる」
財布を取り出すと、その中に入った万札を数える。二十八万、入っていた。そのうち二十枚を差し出した。裏取引なので、金は雀朱に直接渡すことになっている。
「その値段で構わない。売ってくれ」
「OK。おまえなら、払ってくれると思ったよ。……一応、数えさせてもらう。
……いいだろう。容器を出せ」
容器は、狼牙が持ち込んだものが十個、雀朱に預けているものが十個、合計二十個あった。雀朱に預けていたものには、既に血が満たされている。それを取り替えた。
「──結城。逆に一つ、聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「……何だ?」
「……さっきの患者とお前には、関係があるのか?」
「――守秘義務はどうした?」
「俺とお前の仲で、この位は許してくれよ。――で、どうなんだ?」
「間接的に、関係がある」
「やっぱりそうか……。
ん?『やっぱり』ってのが気になったか?気にするな。どうせ、答えられない」
「答える代わりに、一つ、頼みがある。
さっきの患者の血液検査、やめてくれ」
「遅ぇよ。もう看護師たちがやっている」
「今からでもいい、止めてくれ。
多分、それには未知のウィルスが含まれていると思うが、それに関して調査や研究をしないで欲しい。
だから、血液検査をやめて欲しいのだが……」
「……分かったよ。貸し、一つだぜ。今すぐ行って、止めてくる。
……その容器、さっさと隠せ。看護師たちにも内緒でやってるんだからな」
そう言うと、雀朱は診察室を出て行った。すぐに、戻っては来たが。
「……まさか、やめたふりだけじゃないだろうな?」
「まさか。……興味はあるがね。やめておくよ。お前を見ていると、そう思わされる」
「ありがたい」
「用件は、それだけだな?あとは、雀の涙ほどの診察料を払ってくれ。
元気でな」
「ああ」
そう返事をすると、狼牙は診察室を去り、やがて診察料を支払って、病院から去った。