人工天使

第25話 人工天使

 それは、夜中に訪れた。

 夕食後。自室に戻ってから。

 呼び鈴が鳴った。滝沢さん――神菜かな?とも思ったが、モニターには治験を受ける側の男が映っている。

「はい」

 モニター越しに問い掛けた。

『商談がしたい。交渉させて貰えないだろうか?』

 ――怪しい。

 とは思ったものの、馬鹿正直にそう返すのはよろしくないだろう。

「何の商談ですか?」

『飛翔薬だ。余剰分を買い上げたい』

 半ば、その返答は見当がついていた。

 勿論、それは構わないだろう。だが、金額次第だ。

「金額は?」

『一錠、10万円』

 成る程、恐らくその金額は、20万までは引き上げても構わないと云う意思表示だろう。

「お話にならないね。

 せめて、70万スタート位の交渉を持ってこれないなら、断る!」

 つまりは、100万までは出せと云う意思表示だ。

『それは流石に高過ぎる!』

「それだけの価値はあるだろ?」

 交渉、終了~!

 彼らが去った後、間もなくまた呼び鈴が鳴った。――神菜だ。

 俺は彼女を部屋に招いた。

「あなたのところにも、交渉は来た?」

「ああ。お話にならない条件だったから、蹴ったがね」

「拘束帯、買取の希望出しておいた方がいいわよ」

「――そうだな。そうしよう」

 明日にでも申し込もうと思った。

「ねぇ。この薬、適正な値段は幾らだと思う?」

「一錠100万円」

「成る程ね、断るわけね」

「神菜こそ、よく断ったな」

「あら。未だ断ったとは言っていないわ。――断ったけど」

 二人とも、光の翼が生えているのだ。傍から見たら、天使の語らいに見えるだろう。

 ――尤も、このまま宇宙へとなったら、俺たちは堕天使に堕ちるのだろうが。

「この治験、薬は週に10錠貰えるわよね。

 月を4週と数えるなら、40錠。

 三か月なら120錠よ。

 私の予想を言うわ」

 何の予想を言うものか、俺にはさっぱり見当がついていなかったのだけど。

「恐らく最短100錠で、永続的にこの薬の効果を得られるわ」

「ソレって――」

 俺は、一つヤバい可能性に気付いた。

「目的は治験、ではなく、Man Made Angel人工天使を作る為、って事か?!」

 その言葉は否定されることは無く、むしろ、確信を伴って、頷かれるのであった。