交渉

第35話 交渉

 ムーン=ノトスはボレアスの元を訊ねて、まずこう切り出した。
 
「コアの供給を期間未定で減らしたい」

「――何故?」

 当然出て来る疑問だ。
 
「新たな10属性のコア以降、成果が見られない。

 よって、月に2つで良かろうと思っている」
 
「成果など、そんなすぐに現れるものではない」

「だが、コアは飽和気味な筈だ。――違うか?」

「確かに、研究に使うコアとしては飽和気味だが、研究費を稼ぐための売却用としては、少々不足気味な位だ」

「ならば、私の方で売り、研究費を支払おう。

 コアの相場が随分と下がって来ていたから、売ってはいるだろうなとは思っていたが、小型化したコアを早々安値で売り払われては、ただいたずらに相場が下がるだけに終わる。
 
 小型化したというメリットも無視して、な」
 
「しかし、量産出来るのだろう?」

「それでも、直径1㎝のコアは十分に高値で売れる」

「ならば、売ってみるが良い。

 これまでに流通したコアが、転売屋の手で、より高値で売られるだけになる現実を、お前は知るだろう」
 
「――いっそのこと、転売を商売にするのは、違法にした方が良いのかもな」

「お前――それ、どれだけの人が困るのか、分かって言っているのか?!」

「今現在、転売屋以外の客が、大いに困っているという事実を前に、対策を打たない方がおかしい。――違うか?」

「いや――言われてみれば、それも確かなんだが、全ての転売屋を敵に回してもソレを言うかよ?」

「コチラが迷惑をかけられた。――転売屋が自ら敵に回ったと見做みなすのが当然だろう。

 それとも、転売屋が幾ら高値で売っても実際の価値以上であろうと買ってくれる上客、と見做せと?」
 
「……お前、コアを幾らで売るつもりだ?」

「1㎝玉で金貨700枚、9㎜玉で金貨900枚を見込んでいるが?」

「馬鹿な!売れる筈が無い!

 既に中古の品でその10分の1を下回る価格で出回っているのに、そんな高値を付けるのは、無謀でしかない!」
 
「そもそもが、そんなに売れては困る。取り締まる方が困るからな。

 そうだな、これだけ意見が違うのだ、研究の成果を出すまで、コアの供給を完全に止めよう。
 
 研究の目標と、それにかかる予算を計上し、請求して来い。見合っていると判断したら、支払おう。
 
 だが、銅貨一枚でも無駄が見られたら、支払いはしない。
 
 十分であろう?ああ、必要なコアの数も、計算して目標に対して最低限必要な数を求めてきたら、コアも手渡そう。
 
 但し、コレも一個でも無駄があったら、手渡しはしない。
 
 正直、追加の10属性のコアに関するデータ以外、君の研究成果は認めるべきところが無いと思っている。
 
 何故、これだけの時間を掛けて研究しているのに、成果を出せないのか、よく考えたら明確だった。
 
 君は、研究の目標すら見い出せずに、コアの売却益で儲けて満足していた。――違うか?」
 
 これにはボレアスも、二の句を告げられぬ。
 
 仕方なしに、こう答えるしか無かった。
 
「……分かった。

 だが、研究のテーマと予算・必要なコアの数を根拠を持って示せば、提供してくれるな?」
 
「余程、とんでもない金額や数を告げられぬ限りは、な」

 ノトスはそれだけ話を纏めると、自らの研究室に戻って行った。