二人の勝負

第31話 二人の勝負

 エナジー・ドレインを試みる狼牙。それに対し、龍青はこう言う。
 
「ホウ……。

 ナカナカノ、ちからダ。マスマス、欲シクナルナ。
 
 彼女ヲ助ケル手段ハ、マダ残ッテイルノダガ、分カルカネ?」
 
「分かっているさ。だが、その為に貴様の仲間になるつもりはない!

 詩織が言った!ヤクザの嫁は絶対に嫌。死んでも嫌だ、と」
 
「ダガ、彼女ト結バレナクトモ、彼女ガ生キテイルコトダケデモ、満足デキルノデハナイカネ?」

「ヴァンパイア・ウィルスは、狂気のウィルス!

 それに感染した詩織が、僕と別れて幸せになれる筈が無い!一層苦しんで、死んでしまうのがオチだ!
 
 貴様も、大きな失敗をしでかしたのだ。近い内に狂気のウィルスが全身を駆け巡る。
 
 その時になって、後悔するがいい。ヴァンパイア・ウィルスに感染したのは、過ちだったと!
 
 ……いや。そうはならないか。貴様は、今ココで、僕に殺されるのだからな!」
 
「えなじー・どれいんノコトヲ言ッテイルノカネ?

 私ハ、君ノ作品ヲ読ンダト言ワナカッタカネ?
 
 ソンナコトニハ、トウニ気ガツイテイルヨ。
 
 ダカラ私ハ言ッタダロウ?ナカナカノ、ちからダ、ト」
 
「馬鹿な!既に大量のエネルギーが僕に流れ込んで来ているというのに、平気だというのか!」

「ソレダケ、えねるぎーガ豊富ダトイウコトダヨ。

 ……サテ。君ノ頭ヲ握リ潰スノト、えねるぎーヲ吸収シ尽クスノト、ドチラガ先カネ?
 
 マァ、君ニ私ノ全えねるぎーヲ吸収シ切レル程ノ容量ハ無イト思ウガネ。
 
 ……オヤ?えねるぎーノ吸収ヲヤメタノカネ?
 
 ……ア痛ッゥッ!」
 
 突然、龍青は狼牙の頭から手を離し、引っ込めた。その原因は――
 
「貴様、一体何ヲシタ!」

「吸収したエネルギーを使用しただけだ。驚く程の事ではあるまい」

「……えねるぎー容量デハ私ガ上デモ、操作技術デハ君ノ方ガ上トイウコトカ……。

 面白イ。ヤハリ君ハ、私ト対等ダ。対等ノ戦イナド、親子喧嘩以来カ……。
 
 私ノ心中デ、コウ、燃エ上ガルモノガアルゾ!」
 
「……戦いは、好きではないのだがな。どうしても、興奮してしまうから。

 だが、貴様は許せぬ!詩織の仇!」
 
「……狼……牙……。

 わた……し、……死んで……ない、よ。
 
 早……く、救……急……」
 
「詩織!しっかりしてくれ!

 誰か、救急車を呼んでくれ!」
 
 龍青が、僅かに表情を歪めた。……半龍人の表情は、読み取りづらかったが。
 
「救急車……?ソンナモノガ来ラレテハ、困ルナ。結界ヲ、張ロウ」

 ピシッ!
 
 何と言えば良いのだろう、そう、空間がきしんだ。
 
 狼牙には、龍青が大量のエネルギーを消費したことが感じられた。
 
「龍青。貴様、何をした?」

「私ノ、数少ナイ能力ノ一ツダヨ。

 コレデ、コノ結界ガ消エルマデハ、誰一人トシテ出入リスルコトハ出来ナイ。コノ私デスラナ。
 
 ホンノ数分程度シカ持タナイガ、我々ノ勝負ニ決着ヲ着ケルニハ、十分ナ時間ダロウ」
 
「クッ……!」

「心配スル必要ハナイ。救急車ガ来テモ、ソノ娘ハ助カラナイ。

 助ケル手段ガアルトスルナラバ、ヴぁんぱいあ・うぃるすニ感染サセルシカナイガ、私トノ戦イガ終ワルマデ、ソレハ出来ナイ。何故ナラバ」

 龍青は右手を狼牙に向けると、その掌から光の弾丸が放たれた。狼牙は、苦も無くそれを受け止める。……否。
 
「クッ!」

 苦も無く、とは行かなかった、強い痛みが走り、掌に火傷が残る。
 
「私ニハ、コレガアル。

 ……素手デ、受ケ止メラレルト思ッタカ?痛イダロウ?えねるぎーヲ使ッテ守ラナケレバ、怪我ヲスル。
 
 今ノハ、対等ノ戦イヲスルタメノ警告ニ過ギナイ。私ガ、君ノ作品ヲ読ムコトニヨッテ得タ、君ノ能力ニ関スル知識、情報戦デ勝ッテイルトイウはんでぃヲナクスタメノ。
 
 次ハ、本気デ行クゾ!」
 
 龍青の両手の間に、大きなエネルギー弾が生まれた。
 
「どうやら、悔しいが貴様の言う通り、これは対等か、むしろ僕の方が不利な戦いのようだな。

 ……殺さずに済ませようと思っていたが、そんな余裕はなさそうだ。
 
 月の加減がイマイチだが、今出せる全力を出して戦おう」
 
 そう言いながらも、詩織にはしっかりと止血の術を掛けていた狼牙。
 
 二人の勝負は、これからが本番であった。