事務所

第8話 事務所

「……テメェ、虎白こじろサンの仲間か……?」

 狼牙は弾丸を胸ポケットに入れて言う。

「……その、『コジロサン』という人を、僕は知らないのだが。

 それより、スーツとワイシャツを弁償してくれないか?……十分な金を持っているとは思えないから、有り金全部で許そう。
 
 それとも、その『コジロサン』とやらのところにでも行って、全額を払って貰えるのかな?」
 
「いい度胸してンじゃねェか。

 いいぜ、虎白サンのところに案内してやろうじゃねェか。……金を払うかどうかは、俺が判断するんじゃなく、虎白サンが判断するがな」
 
「それは困る。

 僕には用事があるんだ。いくらかでもお金を支払ってもらわなければ、行く意味が無い。
 
 それなら、ここで支払って貰おう。最悪、君を殺して強奪するが、構わないかな?」
 
 狼牙は、喉を握る手に少し力を込めた。
 
「わ、分かった!頼む!力を抜いてくれ!

 最悪、俺が支払うことの出来るだけの金は払うから、それで勘弁してくれ!」
 
「……いいだろう。

 その代わり、走って逃げる事が出来ない程度に、体力を奪っておこうか」

「……?」

 何が行われるのか、男が不審に思っていると、狼牙が喉を握る力の手を抜いたので、束の間、ほっとしていると、すぐに体全体から力が失われて行くのを感じた。
 
「……?
 ……何だ、テメェ。何をしやがった?
 
 ちっ、力が……入らねェ……」
 
「……こんなところだろう。

 さて。案内してもらおうか。その、『コジロサン』とやらのところに」
 
「この……化け物め!」

「誉め言葉と受け取っておこう。

 さあ、案内してくれ」
 
「……ついて来い」

 時々ふらつきながら、歩き始めた男。やがて、たどり着いたのはやはり、暴力団の事務所らしきところ。『平木ひらき組』という文字が狼牙の目に入った。
 
 暴力団と言っても、狼牙単独にとっては特に怖いところではない。躊躇わず、男の後について行った。
 
 コンコンッ。
 
「失礼します!」

 男は大きな声でそう言うと、部屋の扉を開けた。
 
「……そんなに大きな声を出すほどの余力が残っていたのか。もう少し、エナジードレインをした方が良かったな」

「うるせぇ。入るぞ」

 部屋に入ると、いかにもそれらしき姿・目つきの男が数人。何やら楽しげに話していたが、狼牙が入ると一斉にそちらを向き、会話を止めた。