第45話 世界樹の妖精
「まだ、終わりじゃないみたい」
声を掛けられて初めて、僅かに間を置いた場所に人が立っているのに気が付いた。
一人はラフィア、一人は皇帝ゼノ・ヴァリー。
そしてもう一つ。ゼノの肩に、見覚えのある小さな妖精。
『世界樹』
ゼノの声が聞こえた。
ゼノ自身からではない。
ゼノは虚ろな目をして、どこか虚空を眺めたまま、唇は微動だにさせていない。
ラフィアの様子も似たようなものだ。
『地表の完全な支配を終えるまでに、あとおよそ350年』
『構築される環境は、人間が生存するのに可能な環境ではあるが、居住するのに適した環境ではあり得ない』
『地上最強の生命体、竜』
『錬金の要、賢者の石』
『馬鹿な。こんなものが、信用出来る筈が無い』
『竜が、実在する?』
『これが、竜の鱗か!』
『ならば、他の記述も……』
『あんなに信用を置けないものを、彼等は90年も研究していたのか。ありがたい!』
『予測されていたより、10年も早い』
『何処に居るのだ、竜たちよ』
『どこにあるのだ、世界樹よ』
『世界よ、待っていろ。もうすぐ、私たちが支配してくれる!』
「キャハハハハハハハハハ!」
妖精が、けたたましく笑った。
「これほど寄生に適した体が存在するとは、夢にも思わなかった。
あなたのお陰よ、レズィン・ガナット。
こっちは、もういらないの。
だから、あなたにあげる」
妖精がゼノの肩から飛び立ち、ラフィアの身体を突き飛ばした。
彼女の虚ろな瞳は相変わらず、つんのめりながらも数歩歩いたところを、レズィンはしっかりと抱きとめる。
「お前が、ラフィアじゃなかったのか?」
「私もラフィアだったの。でもって、その前がランクルードで、今度からはゼノになるのよ。
よろしくね。
その子の事なら、大丈夫。
そっちのラフィアもあなたの事は覚えているし、あなたに好意を持っているのはそっちのラフィア。
あなたとは上手くやっていけると思うわ」
再び妖精はゼノの肩に止まる。
レズィンには、その妖精がとてつもなく危険だという気がしていた。
根拠は無いが、レズィンの勘がそう告げている。
心の片隅で、銃を撃てと命じている自分が居る。
いざという時にはすぐに抜き撃つことが出来るよう、ラフィアは自分の身体から離すようにして片手で支える。
「何をもたもたしておる!
さっさと撃たんか!」