第49話 世界樹の侵食
『アレは儂じゃ』
ランクルードが再び姿を現す。余計なところで口を挟まれ、気勢を削がれたような気分になる。
「幸か不幸か、ゼノの傍におったからのぅ。
あ奴はどの程度の事を知っていて、何を目的にしているのかを、知る必要があったのじゃ。
儂の子供たちが、万一にも襲われんようにな。
それが、世界樹の樹液の中に居ったお主にも見えてしまっただけなのじゃ。
標的をゼノに変えてくれたお陰で、この娘からも追い出す事が出来たから、まぁ良かったのかのぅ」
ランクルードの発言で、レズィンの考えが大きく揺らぐ。
「じゃあ、皇帝は誰が操っていたんだ?」
てっきり、あの妖精が見せている映像でしか無いものだと思っていた。
――そうだとすると、ランクルードの姿が四散したのも映像という事になるのだが……。
『……フフフ。
簡単よぉ。賢者の石を使えば……無い!
そんな……なくなってる!』
「回収させて貰ったわい。
残念じゃが、寄生出来る条件は賢者の石では無いんじゃよ。
条件は、ある程度以上の植物性を有して居ること。
ハーフのこの娘は勿論、世界樹の樹液を幼い頃に儂が飲ませ続けていたレズィンも、その条件に当てはまるのぅ。
勿論、実態は植物である儂も、同様のことじゃ」
「俺が……植物?」
ランクルードは沈痛な面持ちで頷く。
世界樹の樹液を飲んでいた等という話は、レズィンにとっては初耳だった。
ただ、幼い頃、やけにおいしいジュースを、ランクルードから飲まされていた記憶が唐突に蘇った。
ランクルードが思い出させたのかも知れない。
思えばアレが、世界樹の樹液だったのだろう。
「体液の半分ほどは、世界樹の樹液になっとる筈じゃ。
世界樹は侵食力が強いからの。
事実、人間の方の儂がそうじゃった。お陰で、随分と長生きした筈じゃ。
お主も、宇宙を旅してきたのじゃから、とてつもなく長生きをしたじゃろう?
そろそろ、大人しく死んではもらえんかのぅ?」
『嫌よ!
死にたくなんかない!』
当然のように返される拒絶の言葉に、ランクルードは嘆息する。
「スマンのぉ、レズィン……」
言いながら虚空に手を伸ばし、先端に炎のチラつく銃器を取り出した。
あろうことか、構えた先にはレズィンがいる。
「じ、ジイサン。どこに向けてんだよ?」
「可愛い孫じゃが、勘弁してくれ!
儂らの為に、寄生虫もろとも死んでくれぇー!」
火炎放射器から噴き出した盛大な炎を、レズィンは必死になって避ける。
「何しやがる、この、クソジジイ!」
「大人しく、覚悟を決めんかぁー!」
かくして。
壮絶な、親子喧嘩ならぬ、祖父孫喧嘩が始まった。