世界を制す

第56話 世界を制す

 紗斗里は早速、100個の『Swan』を生産すべく、動いていた。

 具体的には、空のサイコプラグを100個買い求めた。

 作成に移るには、まずはソレが届いてからだ。

「総司郎。『Swan』の作成、手伝ってくれない?」

「ええ、手伝いましょう」

 届いて早速、総司郎と化した疾刀と共に『Swan』の作成を行った。

 作成を行ったと云っても、元データがあるので、コピー&ペーストの作業である。

 原価は単価約1万円。ソレを100個で3億円で売ろうと云うのだ。ぼろ儲けと言っていい。

 だがコレで、ありとあらゆる治療行為の効果が激増する。

 より安く、より多くの人々へ治療を施せるようになるのだ。

 単価1億円で売っていたから、限られた人しかその恩恵に与れなかったが、恐らく、値引きも行う筈だ。

 でなくば、結局はある程度の金持ちしかその恩恵に与れない。

 ソレでは、『Swan』の数を増やした意味が無いのだ。

 いずれは、一回1万円程度。その金額の治療なら、多くの者が『Swan』による治療を希望する筈だ。

 社会の表舞台に立って治療を施すこと。コレが可能になれば、多くの者が『Swan』による治療の情報も得られる。

 今は、知名度を上げる程度で良い。

 特許の権利は既に失われている。

 だが、『Swan』の量産の為には、紗斗里や総司郎と云った、スーパーコンピューター人工知能AIによる、コピー&ペーストが最も効率的だ。

 実際問題、特許に申請した通りに『Swan』を作り上げるには、300万では足りない。

 人格を乗っ取れるレベルの人工知能。ソレが必要不可欠だ。

 そして、そのレベルの人工知能を作り上げる迄の過程で、数十億と云う金はサクッと消費されてしまう。

 その上で、『Swan』を作る?単価300万円相当で販売されているであろうものを?

 2番煎じの弊害だ。原価が回収できなければ、作り上げる意義が失われる。

 ならば、総司郎は無駄だったのだろうか?

 答えは、否である。

 紗斗里のプログラミングした、紗斗里を超える可能性のある人工知能。

 当然、新しいサイコソフトの製作が期待される。

 未だ作り上げていないのは、犯罪に繋がらないサイコソフトの案が、未だ出ていないからだ。

 そして、総司郎が設計する事で、紗斗里の性能が上がり、紗斗里の性能が上がった分、総司郎をバージョンアップ出来るのだ。

 この好循環が流れている事で、大和カンパニーはサイコソフトの生産で、最先端を行っている。

 『Excalibur』は、総司郎の発明だ。だが、やはり犯罪に使われる可能性があると云う事で、封印された後、『クルセイダー』の手に渡った。

 国際的なキラーチームは、世界に『クルセイダー』しか存在していない。残りのキラーチームは、一国内に留まる規模だ。

 そして、『クルセイダー』が『世界の警察』的な活動をしている事は、他のキラーチームからは嫌悪される一方、民衆の支持は厚い。

 結果的に、『クルセイダー』は世界最大規模のキラーチームとなっている。

 ソレには、紗斗里と総司郎が比較的『クルセイダー』寄りの立場にある事が、原因として大きい。

 幾つものキラーチームを吸収・合併して来た『クルセイダー』は、その基本方針として、『カオスのグッド』と云う立ち位置に居る事を目指している。

 例えば『Swan』による治療一つを取っても、非合法な稼ぎである事は間違いない。

 そして、『ネットを組む』と云う技術の独占が、他のキラーチームを圧倒して優位性を持たせている。

 だから、義賊として加入者も多い。

 但し、勘違いした馬鹿は、『カオスなら法律に反しても構わないだろう』等と云う考えで、悪事を行い、処分されるケースは中々断絶させられていない。

 例えば、透視能力のある馬鹿な男が、服を透視して――と云っても、透視対策をされた服は多いが――も、強く罰せられる事は無い。

 だが、レイプはダメだ。余り未だ知られていないが、『レイプのマナー』を通して、同意を得られた場合を除くレイプ犯は、死を以て償わされる。

 メンバーが欲求不満で上に訴えた場合、その『レイプのマナー』を説明され、相手にも説明する事を強いられ、説明を怠らずに同意を得られた場合のみ、特別に許可が下る。

 だが、その相手が嫌がる事をした場合、ある程度罰せられる。

 だから、主にメンバー同士の間で、欲求不満を解消する為の手段として、そのマナーは存在するのみだ。

 非常に恥ずかしくなるやり取りをしなければならないが、ソレも一回目限り。二回目以降は、興奮を増す作用があると言われている。次第に慣れるとも言われているが。

 若い男女の間であれば、『若気の至り』として判断されるが、30を超えた者がソレを行うと、メンバー間から白い目で見られる。

 ところで、世界で唯一、『セレスティアル・ヴィジタント』はサイコソフトの開発が可能なスーパーコンピューターを所持するキラーチームだ。

 ソレへの対策は、今のところ、『クルセイダー』には出来ていない。

 せいぜいが、紗斗里と総司郎の協力を取り付けるのが精一杯だった。

 全面的な協力は望めない。

 お互いの利益の一致を見なければ、中々難しい。

 その点に於いては、『クルセイダー』は、唯一『セレスティアル・ヴィジタント』には勝てない。

 特に、『アンチサイ能力』や『ジャミングシステム』による影響を受けない『Fefnirファフニール』を開発された事は、『クルセイダー』にとって脅威である。

 だがそれも、『セレスティアル・ヴィジタント』による日本侵攻を跳ね返した際に、ある程度の数を手に入れている。

 アメリカの『クルセイダー』も、『セレスティアル・ヴィジタント』の吸収・合併を狙っている。

 アメリカは、『自由』を謳う国として、世界で最も多くのキラーチームを有している。

 故に、アメリカのを制したキラーチームが、世界を制すとも言われている。

 今のところ、『クルセイダー』と『セレスティアル・ヴィジタント』が双璧を為している。

 紗斗里は、密かに『クルセイダー』が世界を制してくれることを期待していた。

 ソレは、キラーチームの多くがローよりカオスを好むが、グッドであらんとするキラーチームは、世界に他に例を見ないからだった。