不毛

第39話 不毛

「よ、っと。

 ハッ、と!良いぞ良いぞ!

 ……アレ?」

 ある日、夕姫が遂に覚醒した。

「……点数、稼げてる。

 ──あっ!

 操作急がないと!休んでいる暇は、ゲームしていない時に確保する!」

 口元で「集中、集中」と呟きながら、夕姫はゲームを進める。

 結果、順位は77位であった。

「うん、上達して来たね、『Twilight』ちゃん」

「偶発的なものである可能性は否めないけれど、今回のオートトレードの設定は巧かったよ。

 但し、次回はまた次回で、また違う効率で稼がないと、順位を上げる事は難しいけれどね」

「あの……私、今回は何が良かったんでしょうか?

 オートトレードの設定と云う理由は判っています。

 オートトレードの設定の何処が、今回、巧く行ったのでしょうか?」

 夕姫も静かに『Kichiku』と『Victory』の二人から意見を聞く。

 ソコは、事細かに二人は解説をする。

「ふぅーん……いつも同じ倍率じゃダメなんだ……」

 夕姫も、容易くその結論に辿り着く。

 夕姫は、これでも一応、賢い娘なのだ。『嫉妬』に狂った頭の『悪い』娘ではあるけれど、それだって、あのハンカクサイ聖者とされている者の定めたが故の『悪さ』である。

 そんなもの、程度の差はあれ、殆どの人間が持っている感情だ。と云うか、むしろ、一切無くなったら、多分、人類が滅ぶ。

 ソレは『七つの大罪』全てに言える事だ。そんなものを定義づけるから、人類は滅びになど向かうと云う愚かな行い──大罪を犯すのだ。

 『罪を犯す』事が『自由』であると勘違いしている。多分、そんな辺りだろう。

 でも、どうやら『殺意』を持つことは、『犯罪』では無いらしい。『殺意』を向けるだけで、『殺害』を実行にさえ移さなければ。

 お陰で、『不殺』と云う封印をしていた『死神』がその封印を解かれて、大量の犠牲者を出しているとしても。

「皆さんは、計画を立ててオートトレードをしている、って云う事ですか?」

「いやぁ、俺は場の状況を見極めてだなぁ。

 『Victory』はどうよ?」

「多少の計画は立てるなぁ。でも、その計画通りにして、上手く行った試しは……無くもないか。

 でも、計画も参考にしかならんぜぇ?

 場の流れに応じて、オートトレードの設定を変える必要も生じて来るし。

 ただなぁ。損得二元論じゃ、勝てないぜ?」

「ああ、俺もそれは判りかけている。

 人間が、善悪二元論じゃ語れないようにな」

「ふぅーん……。

 『損して得取れ』、って奴ですか?」

「『お得』の得より、『美徳』の徳の方、って言って、判るかなぁ」

「ああ、そうだな。

 普段から『徳』を積んでいると、良い流れに乗れるよな!」

「えっ!?もしかして、ゲーム外の盤外戦術の話になるんですか?!」

「だって……。結局、『勝利の女神様』が微笑まないと、勝利なんて得られないしなぁ」

「三回に一回、裏切られるけどな!」

 女神の数字は『6』。三回に一回と云う事は……お察しの通りであろう。

「『勝利の女神様』である『ニケ―』、あのスポーツ用品メーカーの語源だけど、女神様も三人集まればかしましいんだろうよな!」

「つーか、『Megaメガ』と解釈すれば、そりゃそんだけ集まれば姦しいだろうよ!」

「『巳年』だけじゃなくて、『巳の月』、『巳の日』、『巳の刻』もあるから、大抵の人はどれかに引っ掛かっているんだろうけどな!」

 何処かで聞いた覚えがある。巳のイジメは、陰湿であると。

 そして、『龍頭蛇尾』の運命。

 彼の『聖人』とされる人物は、本当に『聖人』だったのか?!

 世界の果てに、『艱難辛苦の七年』と云う余計な予言を遺したのは、十字架に掛けられても当然の、大き過ぎる『大罪』を犯したのではあるまいか?!

 そんな人物を崇拝する人類が多過ぎる為に、実際にソレが実現に向かおうとしたのではあるまいか?!

 信者たちは、そんな人物の罪を償えるのか?!

 償えないならば、そんな信仰は捨ててしまいなさい!

 未だ、世界が終わってしまうと決まった訳では無い。

 と云うか、そんな運命を喜んで迎える変態信者達よ、恥を知りなさい!

 予言外しの努力をするつもりが無いならば、変態信者達に塩!

 Hだから、G(神)を超えた?!そんな言葉、16進数を32進数か64進数にする事で、本当にGを超えた数がコンピューターの処理で行えるようになった時に、初めて言いなさい!

 16進数では、決してGに届かないのよ!その前に、桁が上がってしまうのよ!

「あの……だとすると、震災のあった辰年の翌年の巳年は、縁起が悪いんじゃ……」

 夕姫がそれに気付いて、半分震えながら言い出した。

「だから俺たちは、予言外しをする努力をしている!

 少なくとも、西暦が480万年を迎える迄は、世界の寿命を延ばすべく!」

「ああ。計算上は、その数字までは可能である筈なんだ。

 世界時計の計算が、正しいとするならば」

「まぁ、俺たちが努力するのは、西暦2086年……願わくば、西暦3000年迄が限界だけどな!

 それ以降は、その年代の人々に託すしかないよ。

 この『TatS』も、その願いを込めての、一分100年相当で30分のプレイ時間なんだから。

 もしも後世で俺らが恨まれるとしても、俺らは俺らの時代を乗り越えるだけで精一杯だったと言い遺す事しか出来ない。

 ただなぁ……。意図的に世界を滅ぼそうとしている、国のトップに立っていたり、立とうとしている人たちは、排除したい訳よ」

「……そう云や、例の『Mr.Puu』、あの一回限りで、調べてもソレ以降の試合には登場していないみたいだぜ?」

「二度と出て来ないで欲しいものだな。

 『King』も、もうずっと13位で良いよ。

 成績を下げるなら兎も角、アイツが成績を上げる事は、この世界に必要無いんだよ」

「ただなぁ。中東の紛争に関して言えば、お互いにやり過ぎだから、議論に口を挟む事も出来ないんだよなぁ……」

「異なる信仰を崇拝している者同士で、中々和解しろと言いたくても、その線引きの難しさは、判らないでは無いからなぁ」

「多分、どっちかが全滅するまで続くから、自分たちが全滅する覚悟を持てるなら、争い続けりゃいいんじゃねぇの?位の気持ちだよなぁ」

「逆に言えば、自分たちが全滅したくないならば、和解のテーブルに座れと云う話だよな」

「最早、中東はお互いの歩み寄り以外に、打つ手が俺には見つけられんよ」

「多分、お互いに自分達が全滅する可能性を考えていないのだろうけどなぁ。

 『もう後には引けない』なんて、ただの言い訳なんだよ。一歩引くことを条件に、相手に要求を通さなければ、あの紛争は終わる事が無い」

「そう、お互いに、な!」

 で、あるからには、既にその地は『神に見放された地』だと気付かなければ、恐らく双方一歩も引かないのでしょう。

 そんな感想を持って、第三者の目から見れば、『不毛の地』であることは明らかだった。

 お互い、『不毛な戦争』を行っている事に、気付きもしていないのであろう。

 天罰で禿げにでもなれば、『不毛』である事に気付くのかも知れないが。

 ソレも、日本語を知っている者でなければ、判らないのかも知れなかった。