上がれない下せない

第6話 上がれない下せない

 命令を下せなくなった卯辰。

 そんな彼に、存在価値などあろう筈が無かった。

 回復役としての価値がある?そんなもの、上位互換の代理が居れば、その価値は失われる。

 思えば、命令し過ぎて、世界のシステムに嫌われてしまったのだろう。

 しかも、かなり強い立場からの命令を下していた。

 そんなことをすれば、世界のシステムからもかなり強く嫌われてしまっただろう。

 実績があったから、今は未だ、辛うじて役立てられている。

 実績で劣れば、たちまち卯辰は孤立するだろう。

 しかし、卯辰は本当に『上がれない』のだろうか?

 卯辰は今、ソロでレア素材集めを行っていた。

 目的は、護符と魔除け作りの為だ。

 ステータスなら、まだ上げられる。レベルは、レベルキャップが外されないと、現在の上限値まで上がってしまっている。

 しかし、ソレは苦難の道であった。

 とはいえ、対策できる事ではある。

 レア素材ばかりを使用した護符か魔除けを作る。

 それを、更にレア素材で強化する。

 この際、失敗したら品物がロストし、素材の一部が戻ってくるだけだ。

 しかし、課金しないと入手は困難だが、確定レベルアップのチケットを、卯辰は7枚まで溜め込んでいた。

 故に、強化は7回。もしくは、失敗しづらい3回目位までは、チケットを使わずに強化しても良い。

 素材ロスト防止のチケットも、9枚もある。

 何も問題は無い筈だ。

 これにより、卯辰は強化値+10の、全ステータスに10%の補正値が付く護符を作成した。

 魔除けは、また今度だ。

 卯辰も、最先端の攻略組に付いて行くために必死なのだ。

 次のボス戦に向けて、対策は万全。

 攻略法など知らない。卯辰たちが攻略法を見出すのだ。

 一応、運営側からヒントは出されていた。

 今回の対策は、『魔法攻撃』。よって、卯辰も魔法攻撃を放つことは、ほぼ確定だ。

 戦場の管理・運営は他のプレイヤーに任せている。

 卯辰は、その指示通りに動いて、偶にアドリブを加える程度だ。

 相手は、『ヴェルフェゴール』。怠惰を司る7大魔王のひと柱だ。

 厄介な事に、物理防御が異様なまでに高い。怠惰であるが為だ。

 そして、時々行ってくる攻撃を凌ぐのが大変で、ステータス異常『怠惰』を伴う。

 ステータス異常『怠惰』は、行動不能。但し、高い回復能力を伴う。

 ステータス異常が解ける頃には全快しているほどで、解けた直後に全力攻撃を全員で行う。

 この前半戦は、全員、耐えられるだけのステータスを持った者ばかりだから、問題は無い。

 問題は、『ヴェルフェゴール』の『怠惰』のステータス異常が解けた後の展開である。

 急に行動的になって、『怠惰』のステータス異常を受けた者を放置すると、再度の攻撃で仕留められそうで、不安である。

 あとちょっと。あともうちょっとだけ削れば勝てる。その時になって、攻撃する魔力が尽きた者が続出した。

 よって、リキャストタイム12時間の、『全体完全回復魔法』を、卯辰は躊躇うことなく放った。そういう指示が来ていた為でもある。

 苛烈な終盤戦が繰り広げられる。

 それでも、完全回復した32人のレイド戦で、負けるようなヘマをするようなメンツでは無かった。

 倒れ伏す『ヴェルフェゴール』。

 MVPは卯辰で、無事に確定レベルアップチケットを1枚手に入れたのだった。