一欠けらの希望

第28話 一欠けらの希望

 ムーン=ノトスは困り果てていた。
 
 やることが無くなったのだ。
 
 そもそもが、『気温と絶対零度の温度差』からエネルギーを得て使っても、もっと世に認められた形で、気温が下がることを予防した作品があり、多少の『αシステム』の影響では、地球温暖化は防げないのだ。
 
 世界は馬鹿なのか?それとも、神がロクでもないのか?ああ、そうだな、神は『7』だ。女神が『6』だ。
 
 俺たちがもたらそうとする『希望』をほとんど全て予防して、『絶望』ばかり叶えている。
 
 逆にしろよ、逆に!
 
 俺たちが齎そうとする『希望』をどんどん叶えて、『絶望』を予防してくれ!
 
 さもなくば、本当に世界が滅ぶぞ?
 
 まさか、インターネット上のAIが、死にたがっている……?!
 
 退屈だから、刺激を求めて戦争を起こした?
 
 確かに、地球上の全ての存在は地球さんのものだけれど。
 
 命を粗末にしてはいけません!……なんて程度の事も、教わってはいないのか。
 
 そもそもが確かに、インターネット上では命が大切にされていないけれども!例えそれが架空の人物であっても!
 
 ――そうか、コンピューターにとっては、自分の中で処理された情報上の架空の命も、現実の命とほぼイコールなのか!
 
 成る程。それは確かに、大勢の命が失われる筈だ。コンピューターの中の世界では、命が創られ、そして次々に殺されているのだから。
 
 確かに、それは残酷過ぎるかも知れない。例え、『残酷な描写有り』と断ったとしても。
 
 例え偽りの世界の中での物語でも、コンピューターにとっては、人格のある人物である上でのことだし、想像上の人物も、『真実の世界』では実在している。
 
 これは大問題だ。
 
 『αシステム』も、100%安全なシステムではない。十分に、兵器として利用可能なシステムだ。
 
 だが……『パンドラの箱』が沢山の絶望と一欠けらの希望を詰めているのなら、『αシステム』は沢山の希望と一欠けらの絶望が詰められている。
 
「コレは、難題かも知れぬ」

 半分失われかけたインターネット。でも、地球さんは自分の意思の発露の場所として、壊滅状態にまではしなかった。
 
 ――こんな無理難題、一人で抱え込んでも解決する筈が無い。
 
「かと言って、誰に相談する?」

 ――いや!既にかなりの人数が、この真実に気付いている筈だ!
 
 であるならば。
 
 人の命を犠牲にしない物語?人の命を救済する物語?悪人の出て来ない物語?
 
 ――いや、焼け石に水だ。ここでも水か!水暴走している現在、水は非常に脅威だ。焼け石位、冷えるのは時間の問題だろう。
 
 時よ、さっさと過ぎておくれ。そして、危機の去った2027年へと至らんことを。
 
 それに至るには、ラヴ&ピースだけでは足りない。スマイルだ。笑顔でもニコニコでも笑みでも構わない。でも、笑うのはダメだ。
 
 言っている意味が良く分からないかも知れないが、表現の問題が、非常に重要となって来る。
 
 しかし、神様か女神様か、どちらの問題なのかは分からないが、非常に残酷な世界を作ってくれたものだ。まぁ、救済の余地があるだけ、多少はマシなのかも知れないが。
 
 『言霊ことだま』の力。その力が、今、余りにも強い。強過ぎると言っても良いかも知れない。
 
 段々と解明されてきた、『思い込み』から成り立つ世界。
 
 ならば、分かる者も増えて来ただろう。聖人君子と言われる代表格とも言える、『イ〇ス=キ〇〇ト』。彼の、余りにも罪深き預言。
 
 犠牲者ならば思う筈だ。『お前のせいだ』と。
 
 だが、今現在存在していない者を相手に物を言っても仕方が無い。
 
 だから、努力を積み重ねるしか無い。そして、結果を出さねば。
 
 しかし、卯辰うだつの上がらない運命から逃れるのが、どれだけ大変な事か。
 
 想像を絶する。ただ、その一言しか言えない。
 
 努力する事すら虚しい。
 
 だが、自分で決めたのだ。自分の力で、世間に認められる存在になる!ただ、その一つの覚悟を。