レズィンの病気

第50話 レズィンの病気

「……以上の条件で、全員、納得していただけますね?」

 セシュール少将の言葉に対して、返された反応は様々であったが、異論を唱えた者は一人も居ない。
 
 一週間に及んだ議論が、これでようやく終結した事になる。
 
「では一週間後に、新皇帝レズィン・ガナット陛下の即位式を執り行います。

 正式にはその時より有効になりますが、それまでの期間も――」
 
 諸注意と会議の締めくくりの言葉などには耳を傾けず、誰もが一斉に嘆息する。
 
 研究所、政府、軍、そして個人的に大きく関わっていたレズィンたち、総勢12名による意見調節は、やはり容易ではなかった。
 
 何よりも新皇帝の選出に、大きく時間が掛かった。
 
 それぞれから出された条件を、一番多く満たしていたのはレズィンだったのだが、本人がそれを嫌がった。
 
 ステイブ中将という立候補があったにも関わらず、レズィンに落ち着いたのは、やはり中将の日頃の行いによるものだと言えよう。
 
 彼の腹心であった筈のセシュール少将ですら、中立の立場を取ったぐらいだ。
 
 結局、研究所の大部分の情報は、一般には非公開という事になっている。
 
 ただ、新たに研究所直属の医療施設が設立される等という、諸々の条件をつけて、お互いに妥協した形となった。
 
 研究所直属だった兵士たちも、これからは皇帝直属の親衛隊という扱いをされることになっている。
 
 何より揉めたのが、世界樹に関する話だろう。
 
 揉めたにも関わらず、世界樹側が出した条件は、ほぼ素通りになっている。
 
 極端に無茶な条件が出されなかった上、圧倒的に優位に立っているのが世界樹側だったので、コレは仕方が無いだろう。
 
 ゼノに関しては、擬装用の人形が用意してあった為、病死という扱いをされることになっている。
 
 実際は本人の人格が崩壊した為、十分に世界樹の樹液で漬物の如く漬けてから、精神をあの妖精のものと交換すると云う荒業あらわざが用いられた。
 
 現在は、傍から見れば立派なオカマとして、何故かセシュール少将と仲良くなっている。
 
 ラフィアとシヴァンは、無事に皇帝の屋敷に住めることになって、本人たちは喜んでいる。
 
 そう、飽くまでも本人たちは。
 
「……困った」

 一人、レズィンだけは、とある悩みに苦しめられていた。
 
 何に困ったのかと云えば、ラフィアに困ったのである。
 
「本気で病気だな、コレは」

 変貌したのである。ラフィアが。
 
 あの妖精に寄生されていたことは、今回の一連の騒動で分かったのだが、それがいなくなってから、たったの一晩で、大きく変わったのだ。
 
 外見は、もちろん変わっていない。性格も、少し明るくなった気がするものの、大きく変わってはいない。
 
 変わったのは、全体的な雰囲気。平たく言ってしまえば、オーラと云うか、魅力が全然違うのである。
 
 元々、美人ではあった。だが魅力的と言うには、まだまだ未熟であったと、レズィンは思う。
 
 それが明くる日の朝に一目見て、神々しいまでの魅力に惹きこまれてしまった。
 
「どうしたら良いもんかね」

 レズィンとて、女に惚れたことぐらいはある。
 
 だが、まともに目も合わせられないほどにというのは初めてだった。叶わぬ恋では無いと云うのが、大きな救いとなっている。
 
「レズィン、さっきから姉さんが呼んでるぞ」

「あ、いや、それは分かっているんだ」

 屋敷の自室に籠ってこうして悩んでいる事も、最近は珍しくない。
 
「早く行ってやってくれ。

 見つかると、騒ぎになる」
 
「……また、何かやらかしたのか?」

「行けば分かる」

 毎日のようなトラブルも、今では苦にならない。
 
 今日もいつものようにラフィアの元へと駆け付ける。
 
「何だぁ、コイツはぁ!」