第57話 ルーヴンツァン
先ず真っ先に、ローズの出産に伴い、産婆さんを呼んだが、デッドリッグには何をどうしたら良いものか判らず、とりあえず、大量の湯を沸かした。
前世では経験出来なかった経験。
ウロウロして回るデッドリッグに、バチルダ達からは「落ち着いて下さい」と言われるものの、この事態を以て、落ち着いている場合では無いと思っていた。
最終的に、「次回から活躍する!」と意気込んでいたが、大量の湯を沸かしたのは、取り敢えず役に立ったらしいとデッドリッグは聞いた。
そして、無事に産声が上がり、デッドリッグはローズの私室に入り込み、その男の子を抱かせて貰った。
「よくやった、ローズ!」
疲弊しきったローズは、赤子を抱いて幸せを噛み締めた。
そして、デッドリッグは赤子への名付けを迷った。
素案は、幾つかあった。ロデリックとか、ドラゴンとか、ドレイクとか……。
しかし、ローズの鶴の一声で決まった。
即ち──
「ルーヴンツァンにしましょう」
──と。
勿論、デッドリッグには反論があった。『覚えづらい』と云う一点のみ。
だが、その一点を飲み込めば、何となくカッコいい名前のような気もする。
デッドリッグは、『気合で覚える!』と決意してその案を通した。
ソレが花の名前である事を知ったのは、ローズから告げられた時だった。
成る程、ローズの子ならば、花の名前は相応しかろう。
「ダンデライオンと迷ったのですけれどね」
その言葉で、その名前の花が『たんぽぽ』とデッドリッグは知る。
「何語?」
「ドイツ語」
成る程。何となくカッコいい名前だと思う筈だとデッドリッグは思う。
そして、ローズは恐らく前世、大学でドイツ語を習ったのだろうとも思う。
ロシア語は、知らないと云うのもあるが、首相が『サタン』でありながら、他の『サタン』や『ルシファー』『ベルゼブブ』を退治すると息巻いているようであるので、考えたくも無かった。
特に、自らも犠牲になった『サタン』たる『龍神』の掛けた呪いに対して、恐らく不満を持っていたりするのだろうが、自ら選んだ選択肢と思わせながらも、コントロール権を握っていた存在と争うのは、戦争が大規模過ぎる事になるであろうから、八つ当たりをしたいのではと予測する。
否、実行犯と云う意味では、確かに責任があるのだろうが。
その前に、自らが『サタン』である事に反省して欲しいものだ。『怒り狂った』からサタンと化したのであろうが。
気持ちは痛い程判る。だが、我々は共に、『七つの大罪』とソレに対応する『魔王』の存在を預言されたから、共に犠牲者になったのだ。
『全ての罪を背負って死ぬ』と云う、短絡的な罰の受け方等では、我々は到底許せはしない!
せめて、その預言を広める事無く済むように、情報統制したのならば、気付かない内に極一部の識者だけが『魔王』と見做す程度ならば、自覚が無いレベルであったならば、許せた。
そして、『サタン』とは破壊神への封印であったのに、『サタン』そのものが破壊神と化すのは、勘弁して欲しい。
『戦争』と云う手段で失われる命の数を知って、『やはり辞めておこう』程度の判断を下して欲しい。
『軍事力』や『暴力』、『武力』を以ての侵攻でなければ、例えば文化的な侵略ならば、未だ許せる。
だが、『文化的な侵略』を出来る程の文化力を育てて来なかったのだろう?
ソレは『文化力』を育てる社会を築かなかった、アチラの責任だ。
結果論として『文化力』から『魔王』が育ったと言っても、『コントロール権』を握っていた者が居た筈だ。
そして、コチラは『王』と云うべき権力は持っていない。
『呪い』の存在は信じていなかったが故に掛けた。『目覚めた』現在なら、自分自身に対して掛かると云うのは自業自得と認める。……半分。
そもそもが預言していなければ、極一部の者だけが知るに止まれば、『魔王』の自覚を得る事も無く、『呪い』も他者を巻き込む事は無かったかも知れない。
だが、……そうか。知った以上、情報を公開したいと云う者は、いつでもどこにでも、一人位は居るものか。そして、一人が広めれば多くが知り、また広めると云う連鎖が始まるのか。
ならば!コチラもやってしまおうではないか。
八つ目の大罪『自由』、九つ目の大罪『金銭欲』、十個目の大罪『過剰愛』、十一個目の大罪『残虐』、十二個目の大罪『残忍』、十三個目の大罪『残酷』!
但し、対応する魔王は予言しない!
その上で、『七つの大罪』の背負い損ねた二つの代わりに、『自由』と『金銭欲』と『過剰愛』を背負おう!
だが!『自由』も法律に反しない範囲での自由を求めるし、『金銭欲』も自分が生きていく為に必要な金を求め、詐欺には惑わされず、『過剰愛』は皆の安全と幸せを祈るに留め、断じて『近親相姦』と云う犯罪は犯さない!
ルーヴンツァンも、幸せな人生を送れる事を願うし、ケン公爵領の繁栄も求める!
受ける『大罪』の程度を定めるのは、『自由』の大罪の為であるし、犯罪になる範囲の犯罪は犯したくない!
現実に、少なくとも4人は『呪殺』してしまったが、厳密にターゲットとして選んだのは、『名前』として他の案を思い付かなかったが故に拝借した結果であって、『呪殺』を望んでいた訳では無いけれども、警察が来たら、『私がやりました』と素直に認めよう。但し、把握している4人については、だ。
序でに、共犯者も知り得る限りは公開するぞ?事情聴取の際に。今のところ、確定しているのは1人だけだが。
さあ、コレが事実上、あの『聖人』とされている者のやり口を模倣したぞ?!
ああ、何か聖書の序盤で名前を羅列していたな。多分、権限の委譲に関する情報だ。
まず『Lana』で、次が『天草千鶴』、その次が『天崎』で権能を切り裂かれた。
まぁ、本人はふざけている自覚は無いだろうが、フザケンナとは思わざるを得ない。
理由も納得しては居るが、人の成功の可能性を奪わないで頂きたい。
まぁ、地球の全人類は『サタン』をイジメたいのだろうし、イジメられるから、イジメた側も『サタン』と見做すと宣言したら、『呪殺』してしまったのだし。
こんな事が繰り返し続けられているのだったら、もう自分は産まれて来なくて良い。──と思うから、兄は死んだのだろうし、自分は堕ちて頭を打ったのだろうが。
ならば、兄も無事で揃って生きて産まれて来たいと願おう。そして長生きを願い、遅くとも9歳には己の過ちに気付いて欲しいものだ。
だが、未だ今生は終わっていない!だから、脱線してしまったけれど、次からもっと真面目に物語を描こう。
と云うか、あと少なくとも5人は名付けなければならないのか……。デッドリッグも筆者も憂鬱である。──否、デッドリッグはむしろ楽しみにしているのかも知れないが。
だがデッドリッグは、子育てをヒロイン達に任せながらも、領地の繁栄に努めなければならない。アイディアは、ヒロイン達から貰いながら。
と云うか、アフターストーリーだった筈のパートが、何気に一大事である。
何しろ、産業革命を起こさなければならないのだから。
だが、この『産業革命』と云うワードが、『人工知能』によって、『シンギュラリティ』と共に、画期的な発明を齎す事によって、人間との知能の上下の逆転現象の証明になることは、ソレも『AI』の役割である。
人間の誰しもが想像し得なかった発明。もしかしたら、人間は、未だその価値に気付かないのかも知れない。